ローラ・フィリップ、衝撃のアイアンマン女子世界記録をマーク。ハンブルク欧州選手権の高速レースに見る新時代の象徴

IRONMAN

2025年6月1日、ドイツで開催されたアイアンマン・ハンブルク・ヨーロピアンチャンピオンシップで驚愕のレーコードタイムが誕生。まさにアイアンマン史に残る特別なレースとなった。

プロカテゴリー出発のあと3,000人を超えるエイジがスタートする光景は壮観のひとこと

優勝したのは地元ドイツのローラ・フィリップ。彼女が記録した8時間03分13秒はこれまでの女子アイアンマン(フルディスタンス)記録を大幅に塗り替えるパフォーマンスだった。

このリザルトには特別な意味が含まれる。2022年にフィリップ自身が同地ハンブルクで打ち立てた女子記録(8時間18分20秒)を、今年4月にカット・マシューズ(イギリス)がアイアンマン・テキサスで8時間10分34秒をマークして一気に更新。
そのわずか1カ月後に再びフィリップが世界レコードを上回るというシナリオは、急進するアイアンマン・男女プロカテゴリーのレベルを、さらに加速させる象徴的なレースにもなったからである。

カット・マシューズ(前)とローラ・フィリップ。戦前から予測されたこのふたりのマッチレースが最終的には現実となる

激しさを増すレース
レース当日は悪天候の影響でスイムスタートが遅れるという幕開け。しかし、会場となるアルスター湖周辺の熱気は冷めることなく歴史的なイベントになることを予感させるかのようだった。
そのスイムは、序盤からマシューズ、フィリップ、そしてジャッキー・ヘリング(アメリカ)とアイアンマン初挑戦となるノルウェーのスールヴァイ・レヴセットの4人がリード。そのままバイク序盤のつばぜり合いを展開する。

悪天候のためスタート時刻が遅れたスイムは、市街地にある湖が舞台。途中、運河の形状を成したルートを抜ける往復コースだ

その後、バイク30km地点でレヴセットがエアロバーが緩むというメカトラブルで後退。しかし、オフィシャルのサポートを受けた後、再びトップグループに追いつくというパフォーマンスは新たなタレントの誕生を予感させるものでもあった。

ニース世界選手権を彷彿とさせる一騎打ち
その後、ランに入ると多くの関係者が予想したであろうフィリップとマシューズのマッチレースに。
T2を最初に飛び出したマシューズに30秒差でフィリップが続き、ふたりの神経戦がスタートした。

前を行くマシューズを終始マークしながら、距離を置きつつもプレッシャーをかけ続けるフィリップ。この争いはまるで、昨年9月のアイアンマン世界選手権(フランス・ニース)の延長戦を彷彿とさせる激しいものとなる。※ニースではフィリップが優勝し、世界チャンピオンに輝いている

ランパートでは後方にフィリップを従え膠着状態の中、終盤までトップを守り続けたマシューズ

そんな中、終始集中力を保ち冷静なレース運びを見せたのはフィリップ(写真下)。
ラン後半から徐々にマシューズとの差を詰め、残り10kmを切った地点で彼女をパス。先頭に立つとホームとなる観客の熱狂を浴びる中、圧巻のスパートを見せてランタイム2時間38分27秒をたたき出した。
果たしてこれがスイム3.8km、バイク180kmのあとのラップだと信じられるだろうか。
そしてフィリップがトップでフィニッシュゲートを通過したとき、ボードが示したタイムは 8時間03分13秒。まさに空前絶後のレコードタイムだった。

「本当に凄まじいレースでした。カット(マシューズ)とはレース中ずっと我慢比べのような状況で、彼女が力強く見えました。ただ、私は冷静にレースを運ぶことを心がけ、ランでは彼女の走りに惑わされることなく自分のペースで押し通せたことが功を奏したのだと思います。そして観客のクレイジーなほどの応援が、私が全力を出し切る後押しとなりました。(この結果には)本当に、本当に誇りに思います」(フィリップ)

その後、2位でフィニッシュしたマシューズも8時間5分13秒をマークしている。
一体何が起こっているのだろうか?
注目すべきなのは単にレコードタイムが大幅更新されたというだけでなく、フィリップ、マシューズがコロナ禍を経たあと、驚くほどのスピードで進化を遂げてきている点だ。

フィリップがメジャータイトルを獲得したのが2021年。フィンランドのクオピオ-ターコで行われた欧州選手権を制したときだった(https://triathlonlife-m.com/archives/3054)。今回で彼女は2度目の欧州チャンピオンに輝いたことにもなる。

一方でマシューズの名が一躍フォーカスされたのが2022年。3月にスペインでアイアンマン70.3ランサローテを制した後(https://triathlonlife-m.com/archives/4633)、アメリア・ユタ州セントジョージで行われたアイアンマン世界選手権で2位を獲得した瞬間となる。(https://triathlonlife-m.com/archives/5479
比較的キャリアが浅いと言っていいマシューズと、フルディスタンスでは5年ほど前から実績を積み上げてきているフィリップが、今や完全に女子アイアンマン・シーンの主役の一角を成すこととなった。
これは、もちろん彼女たちの才能と日々の研鑽に加え、トレーニング理論の進化と併せアプローチ方法の多様化、さらには関連機材のめまぐるしいイノベーションなどが掛け合わさってのリアリティーと見てとれる。

ローラ・フィリップ(中央)、カット・マシューズ(左)に続き3位に入ったスールヴァイ・レヴセット(右)はフルディスタンスのアイアンマン初挑戦。こういったニューカマーの登場が今シーズン数多く見られるのだろう

そして今回バイクトラブルというハンデを乗り越え、彼女らに続いてポディウムに登壇したのが初アイアンマンのレヴセット。アイアンマンの選手層は厚みを増していく一方であることは間違いないだろう。

男子レースの進化も止まるところを知らない
ちなみに、この欧州選手権は男女でレースが分けられており、今年も女子プロをハンブルクで、男子プロは同じドイツのフランクフルトで6月29日に実施されることとなる。

片や、その今シーズンの男子アイアンマンの動向を見てみると、たとえばアイアンマン・テキサスを制したクリスティアン・ブルンメンフェルトは7時間24分20秒をマーク。数年前ならばこちらも『驚愕の』という表現が適切なのだろうが、もはや勝つために必然と評しても過言ではないタイムになっている。

選手たちはハンブルクの美しい景色を抜け、牧歌的なフィア・ウント・マルシュランデ地方を巡る

そして、昨年から始まったアイアンマン・プロシリーズは2年目に入り、その存在感を増してきているという事実。
今年我々は、アイアンマンの世界のプロ・シーンの進化を、これまでの常識を上回るスピードで目の当たりにすることは間違いないだろう。

【女子上位リザルト】 SWIM BIKE RUN FINISH
1位 ローラ・フィリップ(DEU)  54:40 4:23:38 2:38:27 8:03:13
2位 カット・マシューズ(GBR)  54:38 4:22:45 2:40:58 8:05:13
3位 スールヴァイ・レヴセット(NOR) 54:38 4:24:10 2:46:40 8:12:28

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