〜 IMセントジョージ・大会レポート① 〜 勝者の風格

【クリスティアン・ブルンメンフェルトはどこまで進化するのか】

東京オリンピック金メダリスト、アイアンマン世界記録樹立、そしてアイアンマン世界チャンピオン獲得。それをひとりで、しかも1年も満たない期間で成し遂げるとは、誰が想像できただろうか?

「リアルチャンピオンですね?」とフィニッシュ後にマイクを向けられると、「スイムもバイクもタフなコンディションでした。だからランのスタート時は、まずはキロ4分ペースを目安に入るよう注意していました」と、サバイバルレースの様相を呈してきた中でも、冷静さを保っていたクリスティアン・ブルンメンフェルト(ノルウェー)。

それは今回のレース展開を見ると分かるだろう。スイム、バイクで好位につけ、勝負どころでライバルたちを突き放す。結果的に横綱相撲だ。まだアイアンマン・キャリア2戦目にして、老練さをも感じさせるレース運びには、驚きを覚える関係者も多いのではないだろうか。

「多くの起伏があり難しいランコースですが、勝負どころと感じた30km付近でブーストをかけ、トップに立つことができました」
フィニッシュ後、憔悴しきって立ち上がることができず、一旦メディカルに収容された後のコメントにも、アイアンマンがいよいよ次のステージに移り始めたことを印象づけた。

しかし今回の偉業に向けては、決して順調な滑り出しではなかった。
レースの4週間前に、同僚のグスタフ・イデンとセントジョージに入り、間もなく(両名とも)風邪を引いてしまう。その後、しばらくの休養を余儀なくされ、本番に向け大きな予定の変更を強いられていた(イデンはレースを辞退している)。

本人もキャンセルが頭をよぎったというが、「可能な限りチャンスは捨てたくない」と、ギリギリのところまでコンディショニングを見極め、出場判断を下していた。
これがプラスに働いたのか、マイナスだったのかは分からない。また、この足止め(風邪)が今回のレースプランに影響を与えていたのかも知れない。

いずれにせよ、アイアンマン初戦は 7:21:12という、破壊的なペースの世界記録を打ち立て、わずか2戦目で世界チャンピオンの称号を手にしたことは事実だ。

そして次の彼のターゲットは、来月6月にドイツ・ドレスデンで行われる フェニックスSUB7 & SUB8 プロジェクト。アイアンマン・ディスタンスで男子では7時間切りを目指すという型破りなレースだ。
一体この28歳のノーウィージェン(ノルウェー人)は、どこまで高みを目指すのだろうか。

《男子上位リザルト》 スイム バイク ラン 総合
1 Kristian Blummenfelt (NOR) 49:40 4:18:42 2:38:01 7:49:16
2 Lionel Sanders (CAN) 52:07 4:16:13 2:42:25 7:54:03
3 Braden Currie (NZL)  47:37 4:16:31 2:47:11 7:54:19
4 Chris Leiferman (USA) 52:02 4:18:34 2:44:25 7:57:51
5 Florian Angert (DEU)  47:40 4:16:14 2:52:43 7:59:35

【ダニエラ・リフ is back】

これほどまでに感情を表に出す姿を見せるは稀なのではないか。5度目のアイアンマン・ワールドチャンピオンに輝いたダニエラ・リフは、そんな喜びを顕にした。

フィニッシュ地点で両腕を広げ飛び上がったあと、5本の指を掲げること3回。
それほど彼女にとって特別な、そして感慨深い瞬間だったのだろう。

「この2年半、アイアンマン世界選手権は行われていませんでした。それだけに今回、私にとっても大切なレースだったのです」。2019年にハワイ5連覇の夢が途切れたあと、その忘れ物をとりにいくためにも、コロナ禍で行われ始めたレースに出場するが、思うような結果を残せないことも多かった。「長い間フラストレーションがありました。今回もダメなんじゃないか、と考える人も多かったと思いますし」(リフ)

今回、アイアンマン世界選手権の開催地がユタ州セントジョージとなり、レース前の記者会見で「コースコンディションが大きく変わり、どう感じるか」という質問に対して出席者のほぼ全員が、ハワイとはまた違う難しさがあると答えていた。
バイク、そしてランコースの起伏、乾いた気候、水温(ウエットースーツ着用)など。

それらを考慮し、レースの4週間目から同じアメリカの内陸地で、高地トレーニングで有名なアリゾナ州・フラッグスタッフに拠点を構え練習を積んできた。
そこでの取り組みが功奏したのだろう。

「坂が多く、風向きが変わる難しいバイクコースも受け入れることができました。カット(2位に入ったカタリナ・マシューズの愛称/タイトル写真左)をパスしたあと、さらにバイクをプッシュするときも楽しめる感覚があったんです」

3位に入ったアン・ハウグ(左)に水を持っていくリフ

フィニッシュ後は、そのマシューズを自らねぎらいに行き、憔悴して3位でフィニッシュした前回(2019年)のディフェンディングチャンピオン、アン・ハウグには気遣いを見せる。
トライアスロン界の宝のひとりである彼女は、さらに輝きを増しているようだった。

《女子上位リザルト》 スイム バイク ラン 総合
1 Daniela Ryf (CHE) 54:42 4:37:46 2:59:36 8:34:59
2 Kat Matthews (GBR) 54:48 4:44:40 3:00:57 8:43:49
3 Anne Haug (DEU)  54:47 4:52:53 2:56:00 8:47:03
4 Skye Moench (USA) 54:44 4:53:13 3:04:21 8:55:21
5 Ruth Astle (GBR)  59:23 4:50:45 3:06:35 9:00:09

(IMセントジョージ・大会レポートはこのあと、注目選手のストーリーや特別コラムを掲載予定です)

>> IRONMAN World Championship セントジョージ特集 ※リンク

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