7月1日にスペイン・ビルバオからスタートした今年のツール・ド・フランス。
パリまでの全21ステージ、3週間続いた激しいレースを昨年に続き制したヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)が所属するのが、オランダの『ユンボ・ヴィスマ』だ。同チームは今年5月、世界3大ツールのジロ・デ・イタリアでも勝者を輩出。チームを構成する選手はもちろん、運動に関するあらゆる科学的アプローチや機材、エアロダイナミクスの研究、スポーツ栄養学についてなど最も進んだサイクリングチームと評されている。
そのチームが一昨年から機材投入しているバイクがサーヴェロだ。
実戦でユンボ・ヴィスマは、エアロロードの S5 と軽量ロードバイクの R5 をコース特性や選手の脚質などに合わせて使い分けている。そんな中、オールラウンド性能に長ける S5 の使用率が非常に高い傾向にあるのだが、今年はこの存在感がさらに際立ったTDFでもあった。
そのポイントを早速チェックしていこう。(写真をタップするとフルサイズで見られます)
【フロント・シングルギアの利用】
写真上は第4ステージで用意されたヴィンゲゴーの S5。注目は何と言ってもフロントシングルのギアをセットしている点だろう。チームは今年からコンポーネンツにスラムを使用しており、可能となったアッセンブルだ。
このフロントシングルギアはこれまで、トライアスロン同様に単独走となる個人タイムトライアルのステージで登場することはあったが、TDFにおいていわゆる通常のロード・ステージで採用されることはあまり前例がない。
しかしユンボ・ヴィスマはヴィンゲゴーのほかワウト・ファンアールト(ベルギー/写真下)など、数名の選手にフロントシングルの S5 を用意。しかも平地メインのコースのみならず、丘陵区間を含むステージでも投入する日が見られた。(山岳ステージでは通常のフロント・ダブルギアを使用)
このフロントシングルギアの使用は軽量化や空力面でのメリット、さらにはギア変速時のトラブル・リスクの軽減などが挙げられる。ただ、先述のとおりTDFでの登場は個人タイムトライアルがほとんどだっただけに、これまでの機材使用の概念を変える事象ともいえるだろう。
これには、とどまるところを知らないレースの高速化に対応し、平地や下り区間でより巡航速度を上げるためのアッセンブルという面もある。12速化したリアのギアと、想定コースに適したフロント(シングル)の歯数を設定し、タイムを削り出していくという作業はトライアスロン発祥のテクノロジーともいえるだろうか。
さらには、このフロントシングルギアの採用は ユンボ・ヴィスマ だけでなく、今年の第8ステージで優勝したマッズ・ピーダスン(デンマーク/写真上)のトレック・マドンSLR にも見られるなど、この先ロードレース界のトレンドのひとつとなっていくだろう。
【進むエアロ化】
昨年モデルチェンジした S5 は、さらなるエアロ化を遂げるべくデザイン進化している。たとえばフロントフォークを覆うフレームのヘッドまわり(前部)は、前モデルよりも(覆う部分が)前方に張り出し、全体の形状もより平べったく前後に伸びた形状に。
シートチューブの下部はフィン形状となり、この部分でも空気抵抗の軽減を狙うなど(写真右上)細かい部分までブラッシュアップされている。
車体前方から見た形状も前モデルからさらにスリムに。フレームでは最初に風が当たる(ヘッドまわりの)空気抵抗の削減も向上させているという。
これらは、サーヴェロのトライアスロン&TTバイク・P5 のデザインを踏襲しているとも見てとれ、ロードモデルとしてさらに進化した形状といえるだろう。
【リザーブ製・エアロホイールの採用】
足まわりのアッセンブルを見ると、サーヴェロがMTBメーカーのサンタクルズと共同開発したホイールブランド『リザーブ』製のエアロ・ホイールを使用している点に注目が集まる。
ユンボ・ヴィスマはこれまでもコースの用途などに応じて同社のホイールを使用してきた。しかしチーム自体は2022年までシマノの機材サポートを受けている関係からか、ロゴなどを表示させず公にしてこなかったのだが、(スラムに変更した)今年からは完全オフィシャル化している。
サーヴェロのメーカーカタログによると、エアロロード・S5の販売完成車にも基本、このリザーブのホイールが装備されていて、今後トライアスロン界でも愛用されるブランドになっていくだろう。
TDF2連覇を果たしたユンボ・ヴィスマ ✕ サーヴェロ。
この組み合わせから生まれるテクノロジーの進化に今後も注目しておきたい。
今年のツール・ド・フランスの最終ステージでパレードライドを披露するユンボ・ヴィスマ。来年も同じ光景は見られるか