5月7日にアメリカ・ユタ州セントジョージで行われる IRONMAN World Championship 特集。このコーナーでは、注目すべき男女プロトライアスリート&決戦トライアスロンバイクにスポットをあてていく。
その第1弾はドイツのローラ・フィリップだ。ディフェンディングチャンピオンのアン・ハウグ(ドイツ)、そしてハワイを4度制しているダニエラ・リフ(スイス)を差し置いてのフューチャーで、いささか恐縮ではあるが今回、TIRATHLON LIFE が女子プロカテゴリーの本命に推すのが彼女。アイアンマン・シーンで今、一番勢いのある女性アスリートといっても過言ではないだろう。
世界各国での主要なレース実績をもとに算出される、PTO世界ランキング は当然のことながら現在1位。
ミドルディスタンスを中心に活動してきた2018年までの成績は、2016年7戦3勝、2017年6戦4勝、2018年はなんと6戦全勝。2019年は不調に終わったものの、コロナ禍でレースが無かった時期を経て、本格的にフィールドをロングにまで広げた2021年も3戦全勝の記録を残し、8月14日のフィンランド/クオピオ・ターコではアイアンマンのヨーロッパ・チャンピオンに輝いている(写真上)。
そして、その勢いを決定づけたのが、今年3月5日に行われた アイアンマン70.3ドバイ。3時間53分03秒というアイアンマン70.3の世界記録を打ち立て、しかも70.3大会通算16勝にまで記録を延ばすこととなった(下写真/中央)。
今月23日に35歳の誕生日を迎えたフィリップ。キャリアのハイライトを迎えるべく彼女は、今年のオフにスペイン・マヨルカ島でグループでのトレーニングセッションを敢行。
そのメンバーはロング&ショート、男女6名ほどのバリエーション豊かな構成だった。たとえば2012年オリンピックの銀メダリスト、東京オリンピック2020出場者など、お互いの長所・短所などを共有し合い、大きな刺激を受けながらのトレーニングになったとのこと。そこには、2014年ハワイ優勝、2019年同3位で2023年に引退を表明しているセバスチャン・キーンレ(ドイツ)の姿もあった。3時間53分03秒の世界レコードは、その成果の現れともいえるだろう。
この後、スイス・サンモリッツでの高地トレーニングなどを経て、すでに現在はセントジョージで調整段階に入っている模様。いずれにせよ今、もっともアイアンマン・ワールドチャンピオンに近い女性トライアスリートのひとりであるのは間違いない。
また彼女は、先のドバイで獲得したレース賞金を、現在ロシアの侵攻を被っているクライナを支援する諸機関などへ全額を寄付。「我々が戦うべきはスポーツで、決して戦争ではない」を合言葉に、自分たちが今できることを発信し、同じく2位に入ったダニエラ・リフ(上写真/左)も事前に公表&寄付を行っている。(1位・2,500ドル:約320万円、2位・2,000ドル:約250万円)
こういった行動は今後、アスリート個人だけではなく、大会としてのウクライナ支援への取り組みにも影響を与えていくこととなるだろう。
【 ローラ・フィリップの決戦バイク/キャニオン・Speedmax CFR 】
「バイク90km超で2時間04分52秒のタイム。まるで飛んでいるようだったわ」と、愛車キャニオン・Speedmaxを駆り、ドバイのレースを終えた後に印象を語っフィリップ。今や、この Speedmax に乗る有力選手は枚挙にいとまがないが、 その中でも注目のひとつは彼女がアッセンブルするスイス・サイド社のエアロホイールだ。
「タイムトライアルのポジションを向上させていくには長いプロセスで必要で、私は進化し続けています。そういったエアロワークに加え、非常に強い味方になってくれている最高のホイールに感謝です」と奇譚のない感想を発信している。
スイス・サイドは特にパトリック・ランゲ、アン・ハウグなど、同じドイツ人アスリート(同じワールドチャンピオン)が愛用するエアロ・エキップメント。さらには世界最高峰のサイクルロードレース、ツール・ド・フランスのタイムトライアルステージで導入するチームがあることでも知らており(写真上)、このテクノロジーが彼女を勝利に導く要因のひとつとなるか。そして、さらなる新パーツをセントジョージに導入してくるのか。
レースの主役を演じるべく、満を持して登場してくる彼女のバイクの詳細も、現地から追ってリポートすることにしよう。