『 T100 』 サンフランシスコ大会が開催 /【女子レース】テイラー・ニブ。パリ五輪へ視界良好 【男子レース】同タイムで着差アリ。史上まれに見るデッドヒートに

PTOレース

6月8日、アメリカ・サンフランシスコで『San Francisco T100』トライアスロンが開催された。
このレースは、ワールドトライアスロンと Professional Triathletes Organisation(PTO/イギリスに拠点を置くトライアスロン機構)が提携し、今年から展開している『T100トライアスロン・ワールドツアー』の第3戦。
スイム2km/バイク80km/ラン18km のレースフォーマットに今回、男子20名、女子17名の選抜されたトッププロたちが出場した。

歴史あるレースが T100 の舞台に

このレースは、1981年から開催されている「エスケープ・フローム・アルカトラズ(ESCAPE FROM ALCATRAZ)トライアスロン」を舞台に、T100部門を新設して開催。
「ESCAPE FROM ALCATRAZ」は、サンフランシスコの有名な観光名所であるアルカトラズ島をスタート地点とする、非常にタフなレース。この島はかつて連邦刑務所として運用されており、厳重な警備とサンフランシスコ湾の冷たい水温、そして強い潮流により脱出は不可能とされていた監獄だった。

そんな歴史をテーマに、不可能を可能にする『アルカトラズ島からの脱出トライアスロン』というユニークな設定を創生し、スタート地点は囚人の輸送船をイメージ。そこから飛び込み(写真上)、サンフランシスコ本土へと泳ぎだしてレースの幕が上がる。

スイムアップした選手の背景にはアルカトラズ島が映える

【女子レース】規格外のローテーションで挑んだニブが圧勝

女子レースの中心は何と行ってもテイラー・ニブの参戦だった。
東京オリンピック銀メダリスト(混合リレー)にして昨年のアイアンマン世界選手権(ハワイ)4位入賞。すでにパリ五輪の出場も決めているスーパーアメリカンは、今年5月に横浜で行われたワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズで2位に入ったあと、実はその翌週に母国アメリカで行われた個人タイムトライアル全米選手権(ロード)エリートの部で優勝している。
これにより、なんとロード個人TTのパリ五輪アメリカ代表にも選ばれており、出場に意欲的だという。

当日のレースは、水温が低くコンディションが厳しいサンフランシスコ湾を泳ぐ2kmのスイムからスタート。
序盤からスピードのある力強い泳ぎでレースを進めたテイラー・ニブは、逃げるトップを視界にとらえつつ2番手でスイムアップ。そのままトランジションエリアに入り追撃を開始する。

他を寄せ付けないバイクラップで勝負が決着
海風を受けるフラットコースから坂道、さらにはカーブが続く区間も有するバラエティに富んだタフなバイクパートに入ると、完全なテイラー・ニブの独壇場。
個人TT全米チャンピオンに輝いた彼女の走りは、他のライバルたちとはやはり次元が違ったようで80kmの距離を2時間9分のトップタイムで走破。バイクラップ2位をマークしたカット・マシューズに5分ものタイム差をつけて、レースの行方を決定づける。

続くランでは、後続とのマージンを考慮するような落ち着きのあるペーシングも見られた、ニブの完勝劇といえる。

ウィニングロードの祝福の中、フィニッシュへ向かうニブ。パリへの視界は良好に違いない

「今日のレースは私にとって大きなチャレンジでした。バイクパートでは力を最大限に発揮できたと思います。この経験を糧に、パリ五輪ではさらなる高みを目指していきたいですね」とニブ。

彼女の今シーズンのレースローテーションを見返すと、4月のアイアンマン70.3(オーシャンサイド大会/1位)のあと横浜のワールドカップ(51.5km/2位・5月)に出場。その1週間後にロード個人TT・全米選手権で勝利したあとにサンフランシスコで再びミドルディスタンスに挑戦するという、オリンピックのメダルを狙うトライアスリートとしては規格外のスケジューリングといえるだろう。

ニブの目指す高みは我々の想像を遥かに超える領域へと向かっているのか。1カ月半後に控えるオリンピックではトライアスロンとロードレース(個人TT)のデュアル・メダリストという快挙を成し得るのか? 今後の注目度はさらに加速していくことだろう。

3位に入ったローラ・フィリップは昨年のハワイ3位の実績をもつ。オリンピアンからアイアンマンのスペシャリストまでが一堂に会するレースは今後も注目を集めていくことだろう

<女子上位リザルト>
1位 Taylor Knibb (USA) 3:38:01
2位 Kat Matthews (GBR) 3:41:48
3位 Laura Philipp (GER) 3:45:07
⇒ 総合リザルト

.

【男子レース】史上まれに見る3名のデッドヒートが展開

女子レースの1時間前にスタートした男子は、史上まれに見る接戦に。1位と2位がほぼ同着で、正面から見るだけだと判別ができないくらい。3位もわずか4秒差という、ミドルディスタンスのレースではあり得ないほどのデッドヒートが展開された。

その3人の主役はマルテン・ファンリール(写真右)、カイル・スミス(左)、リコ・ボーゲン(中央)。

ランの終盤から始まった三つ巴の死闘は、まずフィニッシュロードへと向かう直前で 2023年のアイアンマン70.3世界チャンピオンに輝いているボーゲン が一杯いっぱいとなり、残り二人のマッチレースに。

その後、ファンリール(右)とスミス(左)の残り100mのスパート合戦は、見ている者すべての息が止まるほど激しいものとなり、僅か、本当に僅かの差でファンリールが先着。(1着の)賞金2万5,000ドルを獲得している。

最後18kmのランは、サンフランシスコのビーチや公園を通り抜けるクロスカントリー的な4周回のコース設定。その中盤から展開した激しい接戦、さらには最後の火花が散るようなふたりのつば迫り合いの結果は、フィニッシュ速報値ではなんと同タイムだった。

サンフランシスコの舞台は、世界最高峰の選手たちが繰り広げる『T100』フォーマットの魅力を、初年度シリーズの3戦目にして存分に知らしめる位置づけにもなっただろう。

すべてを出し切ったスミス(手前)とボーゲン(奥)。ミドル史上5本の指に入るのではという激しいスパート合戦だった

「今日のレースは本当に過酷でした。ご覧のとおりカイル(スミス)やリコ(ボーゲン)との激しい競り合いが続き、最後まで気が抜けませんでした。そんな中でも、ランパートで自分のペースを貫けたことが勝利の要因になったと思います。これからパリのオリンピックに向けて、さらにトレーニングに集中していきますよ」(ファンリール)
そう。今回男子で優勝した彼も、1カ月半後にベルギー代表としてパリ五輪のコースで躍動する予定となっている。

ロングからショートまで、今後さらに幅広いタレントたちがターゲットにするであろう『T100』の次回シリーズ戦は7月27日と28日のロンドン大会。パリ五輪・トライアスロン競技の直前に行われる。

サンフランシスコ湾のランドマーク。ゴールデン・ゲート・ブリッジをバックに走るアリスター・ブラウンリー。T100ワールドシリーズは、多くのオリンピック・メダリストたちの活躍の場にもなるだろう

<男子上位リザルト>
1位 Marten Van Riel (BEL) 3:18:20
2位 Kyle Smith (NZL)   3:18:21
3位 Rico Bogen (GER)  3:18:24
⇒ 総合リザルト

>> T100 ワールド・ツアー のHP

関連記事一覧

おすすめ記事

過去の記事ランキング

  1. 1

    アイアンマン ジャパン みなみ北海道。2024年9月15日(日)開催を目指し実行委員会が立ち上がる / 日本にフルディスタンスのアイアンマンが帰ってくる!

  2. 2

    ブルンメンフェルトの強さ&速さの秘密とは?【前篇】/宮塚英也のトライアスロン“EYE” 〜トライアスロン・トレーニングの鉄則〜

  3. 3

    クリスティアン・ブルンメンフェルト アイアンマン・7時間21分12秒の衝撃 / 世界記録を更新

  4. 4

    最速TTバイク/五輪を制した “サーヴェロ・P5” を検証する

  5. 5

    2023年のアイアンマン・ハワイも2日開催に。シリーズ全17大会で女性スロットを拡充

  6. 6

    トライアスリートのためのツール・ド・フランス特集2020 速攻TTバイクリポート

  7. 7

    フェルトの新型トライアスロンバイク 2022年の注目モデルをチェック

  8. 8

    アイアンマン ジャパン みなみ北海道 の2024年9月15日開催が正式にアナウンス / エントリーは12月19日の午前9時よりスタート!

  9. 9

    ブルンメンフェルトの強さ&速さの秘密とは?【後編】/宮塚英也のトライアスロン“EYE”  〜クリスティアンのトレーニグ改革〜

  10. 10

    アイアンマン70.3東三河ジャパン in 渥美半島 が6月10日(土)に開催!/ 世界選手権への道(フィンランド・ラハティ)も日本から!

おすすめ記事 過去の記事
  1. 『トリプルクラウン』クリスティアン・ブルンメンフェルトが70.3ワールドタイトルも獲得 / アイアンマン70.3世界選手権・男子プロが開催

  2. アイアンマン世界選手権2023の男子レースはフランス・ニースで開催決定。2026年まで男女レースの舞台をハワイ&ニースで交互開催に

  3. ツール・ド・フランス2021特集 注目の新興TTバイク② ファクター/SLICK

  4. IMセントジョージ特集 / 注目選手&決戦バイク③ 〜ダニエラ・リフ & フェルト・IA 2.0 編〜

  5. “BOULDER/メッシュバッグ”  あらゆるシーンにフィットする多機能ストレージが登場

  6. ハワイで行われるアイアンマン世界選手権(男子)のスタートリストが発表

  7. アイアンマン世界選手権ニース【動画レビュー】

  8. ブルンメンフェルト『ついに闘う日が来た』。フロデーノ『鳥肌が立つね』 。世紀の一戦がスペイン・イビザ島で開催 / PTOヨーロピアン・オープン

  9. 【Harry’s Shots】全日本トライアスロン宮古島大会 〜アーカイブ〜

  10. 歴史の継承。【IMニース世界選手権2023・レビュー】

  1. 2023年のアイアンマン・ハワイも2日開催に。シリーズ全17大会で女性スロットを拡充

  2. ツール・ド・フランス2021特集 2年目の『バブル』を迎える世界最大の自転車レース

  3. ツール・ド・フランス2021に見る東京五輪を走るバイク② 〜ドリアン・コナン編〜

  4. グスタフ・イデンとアシュリー・ジェントルがツアー開幕戦を勝利 / PTOカナディアン・オープンが開催

  5. 東京五輪のコロナ対策でフォーカスすべき “Bubble (バブル)” とは?

  6. ツール・ド・フランス2021に見る東京五輪を走るバイク① 〜バンサン・ルイ編〜

  7. ツール・ド・フランス2021特集 レースを支える応援者は“もうひとりの主役”

  8. 躍進するシマノ。今年のツール・ド・フランスにも注目

  9. 賞金総額1億3,500万円! PTOカナディアン・オープンがいよいよ開催

  10. コリンズ・カップはトライアスロンの新たな歴史を刻んだか?

TOP