近年、ヨーロッパのプロスポーツ界ではトレーニング&コンディショニングの指標のひとつに『中核体温』、つまり身体の深部体温をモニタリングする手法に注目が集まっている。ここでは、体表の温度に対して“コア体温”と表現することにしよう。このコア体温は、心臓などの身体の大切な臓器の働きと密接に関連しているとされていて、これが運動時のパフォーマンスにも影響を与えると考えられている。
スポーツ時には、筋肉の動きにより大量の熱が発されコア体温が上昇する。それを冷却するために、身体は発汗や表皮血流を増加させようとするわけだが、血流が表皮に向かえば向かうほど、筋肉に酸素を供給する役割となる血液が限られてしまう傾向にある。
この仕組みに注目し、コア体温をモニタリングするウエアラブル・センサーとして、欧州のスポーツシーンで広く活用され初めているのが “CORE Body Temperature” だ。
“コア体温” をコンパクトな計測器を装着するだけで測定可能なウエアラブル・センサーは欧州で注目され始めている
運動中のコア体温の計測は古くから取り組まれてきてはいたが、直腸温度など測定環境が限られていた。そんな中、このスイスメイドの最先端小型センサーは装着するだけで手軽に正確な温度測定が可能。先述のとおり自転車ではツール・ド・フランスに出場するワールドチーム(アスタナ・プルミエテック、ボーラ・ハンスグローエ、チーム クベカ・アソス など)、さらに直近では東京五輪のロードレースで優勝した男女選手が利用していたことでも知られている。
そしてトライアスロンでは、先日行われた東京オリンピック男子を制したクリスティアン・ブルンメルフェルトの走りが記憶に新しい、ノルウェー・チームが採用。スペイン・シエラネバダ山脈の高地で行われたテスト合宿で、CORE をトレーニングに利用している動画も公開されている。(下参照)
東京オリンピックに向けたノルウェー・チームの合宿時の動画。先端トレーニング機器を駆使しているところにも注目したい
ブルンメンフェルトもパフォーマンスアップを目的に「CORE」センサーをモニタリングなどに使用している
ツール・ド・フランスで明かされた有効性
「COREセンサーを使用して数カ月になりますが、この種のデータはこれまでになかったものでまったく新しい指標を我々にもたらしてくれています。まだ多くのことを学んでいて、新たなパワーメーターのようなアイテムですね」と説明するのは、今年のツール・ド・フランスにも出場したアスタナ・プルミエテックチームのテクニカルマネージャーであるイバン・ベラスコ氏。(CORE のHPより)
現在、各レース&ステージに応じたウォームアップやクールダウン時の最適化メニューの作成に利用するなど、コア体温がレースやトレーニングのパフォーマンスに与える影響をデータ化しているという。
ツール・ド・フランスではアスタナ・プルミエテックなどの有力チームが使用していた
「山岳ステージなど厳しいコンディションになればなるほど COREデータの価値は高まっています。ライダーが極限状態のとき、体表温度とコア体温との相関関係や外的要因(気温、天候など)を考慮しながらパフォーマンスをモニタリングし、データを特定化。またタイムトライアルでは、各ライダーの最善の出力閾値を算出するときなどに利用しています」
さらには、ほかの(これまで指標としてきた)すべての数値と組み合わせることで、レースやトレーニングで “The best of the best(本当の、最良の)”のアプローチ方法を模索中だという。
「暑い日や寒い日、峠や平地でほかのライダーよりも自分をプッシュできる選手がいるように、各々で特性、適正が違っていて運動時の反応も異なります。そんな中、この新しいパズルのピース(CORE)から受ける恩恵に期待が高まっているのです」
5月に行われた横浜WTCS時のブルンメンフェルト。このときもコンディショニングに “コア体温” が活用されていた photo/NOBUTAKA OTSUKA
ガーミンやスマートフォンアプリなどインターフェイスも柔軟に対応し、モニタリングしやすくなっている
確かに、トライアスロンのノルウェー・チームのトレーニングでは、COREセンサーの使用と並行して、心拍数や乳酸値、酸素摂取量などモニタリングしているシーンを見ることができる。これはトレーニングを科学する中、新たな指標としてコア体温が導入されているということだろう。
アスリート、そしてトレーニングの進化は留まるところを知らない。世界のスタンダードはまた新たなステージに進んでいることにも注目しておきたい。
>> CORE のホームページ ※リンク