トライアスロンが初めてオリンピック種目となったのは2000年シドニー大会。今年夏に予定されている東京大会で6回を数えることとなる。レースは2001年から日本トライアスロン選手権の舞台となっている東京・お台場。日本の先端カルチャーを数多く生んできたこのウォーターフロント・エリアと、トライアスリートの洗練かつ超人的なパフォーマンスとのコントラストで、見るものを魅了し続けてきたレースが世界中に発信される。日本のトライアスリートにとっても心躍る瞬間となるだろう。
昨年のツール・ド・フランスでのインタビューシーン。新型コロナウイルス対策のため採り入れられた “Bubble” ルールに則り選手とインタビュアーはフェンスで一定の距離が常に保たれていた
一方で今回のオリンピック、パラリンピック大会は新型コロナウイルスの終息がまだ見えない中での実施となることが濃厚。ここのところのニュースでは、開催に向けて観客制限を実施するか否か、海外からの観客を受け入れるのか、などといったトピックが連日といっていいほど取り上げられている。
確かにこれらのガイドラインを固めることも重要ではあるが、現行のほとんどの国内報道は大会を開催するための根本的なテーマにまだ触れてられていない。それは、世界各国から集まるアスリートやそのスタッフ、メディアといった多くの関係者への対応をどうするかという課題である。もちろん、観客やスタッフの安全・安心は確保しなければならない。その上で、先述の演者となるアスリートなどの安全性が担保されなければ、大会を成立させることは不可能なのは言うまでもないだろう。
そこで今後フォーカスされると考えられるのが“Bubble(バブル)”という概念。昨年後半からの主要な国際大会でも取り入れられてきた運営の手法である。
この『バブル』とは端的にいうと選手隔離を目的としたオペレーション。アスリートをウイルス感染から守り、またもしも感染者が出たとしても影響を最小限に収めることなどを目的としたもので、世界3大スポーツイベント(オリンピック、W杯サッカー、ツール・ド・フランス)では昨年、ツール・ド・フランスで初めて採り入れられている。それはどのような内容だったのか? 新型コロナウイルスの影響で、当初予定の6月末から2カ月遅れで始まった昨年のレースの模様を切り取りながら紹介しよう。
地元フランスの超人気選手、ジュリアン・アラフィリップのスタート前風景。レースに向けた準備中はもちろんフィニッシュ後も選手たち全員がマスクをしていた
ツール・ド・フランス(TDF)の主催者は昨年レース前に、選手、そしてチーム関係者と主要なオーガナイザーなどを “Race bubble” という最上カテゴリーに位置づけ3週間続く全21ステージの期間中、他のあらゆる関連者、ギャラリーからソーシャルディスタンスを担保し、レースを実施すると発表した。「バブル」とは直訳すると泡。ほかに「ドーム型の建物」といった意があり、そういったイメージで彼らを隔離するという表現なのであろう。
具体的にはレース会場だけでなく日々移動を繰り返すチームのホテルなどでも同様に制限され、選手の家族でさえ接することが許されていなかった。例年だとメディアに向け、各チームの日々の宿泊ホテルがリスト化され公表されるのだが、当然それも無し。仮にホテルにたどりつけたとしても、ごく一部の指定されたメディア(もちろん入念なウイルス感染対策を実施)を除き選手との接点をもつことは不可能だ。
もともと各会場でのゾーニングにおいて、世界3大スポーツに相応しい完成度を目の当たりにするTDFではあるのだが、さらにエリアコントロールを厳格化。レース会場での選手取材ゾーンでもインタビュアーの数を各国制限した上、フェンスの仕切りで選手との距離を十分に確保。手差し棒を介して使用するマイクには消毒したカバーをインタビュー毎に付け替えるなど、細かい点までルール化されていた。注目チームや各ステージの優勝者インタビューなどは、別室からモニターを介したリモート形式。フランス国内の感染状況の悪化が進んだステージ後半は、無観客(スタート&フィニッシュ会場)で実施するケースもあった。
メディアと選手は常にフェンスで仕切られる(写真上)。ステージによっては高い仕切りで会場が見えないエリアもあった(写真下)
新型コロナウイルスの検査体制も拡充。レース期間中、PCR検査のための移動式車両を帯同させて、都度、出場するライダーの健康状態をチェック。大会期間中2日ある休息日には “Race bubble” に位置づけられているレース関係者全員の一斉検査も実施されている。
昨年のツール・ド・フランスではモバイル式のPCR検査ラボを導入。スタート&フィニッシュ会場が毎日変わるレースにフレキシブルに対応した
ちなみに、このツール・ド・フランスに関わっているのは選手・メカニックや運営スタッフ、報道などを含めて約4000人。その4000人規模のイベントが23日間、しかもフランス国内を縦断しながら開催され続けることができたのは、こういった厳格なレギュレーションを構築し、完遂されたことにほかならない。
観客に対しても主要なポイントでは必ず消毒液を常設(写真上段)。会場内で消毒液を背負ったスタッフの姿も(写真下)
さて、すでにご覧になられた人もいるだろうが、2月に今夏の東京オリンピック開催に際して、主に海外からの選手やメディアなどに向けたガイドラインを示すプレイブック(ルールブック)が公開された。これらはいわゆる初版で、4月以降に必要に応じてアップデートされるという。実際その中身を見ると、まだ基本原則的な内容が多く、実運用に際してのより具体的な案内は第二版以降からということだろう。
それでも、入国前72時間以内の事前の新型コロナウイルス検査や、日本滞在中は少なくとも4日ごとの検査の義務づけなど、表現はともかく、このコラムで紹介してきた “Bubble”に相当するルールが盛り込まれているのは自然な流れといえる。今後、具体的には選手村が最大の“Bubble”となり、そのほかの郊外や地方に設置されるサテライト施設などでも、それぞれ細分化されたテーマに沿った対策(隔離方や検査態勢)が敷かれていくものと考えられる。
その一方で、各国からの選手を受け入れる予定のホストタウンをどうするかや移動の方法など、一元的なマニュアルでカバーし切れない部分が多々あることも容易に想像できるだろう。そういった課題をどうキャッチアップしていくのか? オリンピック開催に賛同する立場、あるいは高い関心をもつ人であれば、このプレイブックの今後のアップデート内容にも注目しておきたい。