現役時代に宮古島トライアスロン4勝を挙げ、引退後も解説者など立場を変えて長年にわたり同レースに接し続けてきた宮塚英也が、トライアスロン・アナリストとして今後のストロングマンについて自身の考えを展開。4年ぶりに見たレースを通して彼が感じたこととは。(写真下は1994年アイアンマン・ハワイのとき/総合10位)
【皆にとって特別な大会】
4年ぶりに開催された宮古島トライアスロン。
今回のレースを見た印象は、長いブランクを経ても、変わらず良い大会であったということだ。
私が選手として最後にストロングマンに出場したのが2002年(初出場は1987年/第3回大会)。そして、その後もプロモーション活動を中心に、ときにはテレビ解説など、ほぼ毎年宮古島に足を運びレースに関わってきた者としての率直な感想である。
競技距離が短縮されるなど、前回大会からの変更はあったものの、それでもロケーションの素晴らしさが変わることはないし、レースを運営しているのも地元の人たち。やはり宮古島トライアスロンは宮古島トライアスロンだ。
公道コースで、さらには走行車線の全般で交通の規制が敷かれるこの規模の大会は、昨今では貴重で贅沢なレースだなとも感じた。
一方で、受け入れ側(地元)はどうだったのだろうか。
全員がそうではないかも知れないが、宮古島大会はやはり島にとっての一大イベントなのだと再実感した。1年に1度、トライアスロンが開催されることは地元の人たちにとっても大きな活力につながっているのではないだろうか。
「島の生活はコロナ前に戻りつつあるものの、まだ完全ではない。でもトライアスロンは実施してほしいし、やっぱり特別なもの。まずは(開催)実績をつくることが大切だと思うのです」
今回の滞在期間中、地元に住む親しい人にそんな話を聞いたことがあり、すごく印象に残っている。
4年の時を経て開催されたストロングマンは、カーボパーティーもアワードもなかった。競技距離が短くなったのも、前述の島の人たちの日常と同じで「一気に元に戻すことは無理」という現実的な対応といえるだろう。
主催者が今年のフォーマットを考え抜き、まずは実施することを目指したとするならば、非常に嬉しいことだと感じている。
コロナ禍を抜けようかという中、宮古島にも観光客が戻ってきているようだ。
でも、トライアスリートの来島はそれとはまた違う特別なものなのだと思う。
【2023年大会をロールモデルに】
さて、ここからは来年の大会について私なりの持論を述べさせてもらおう。
大きな関心事のひとつとして、次回の競技距離がどうなるのか? ということがあると思うのだが、その点について私は以前(2019年大会の距離)のフォーマットには戻さなくて良いと考えている。
今回のほうがいいと感じたし、何ならバイクもランと同じく2周回にして、さらに大会をコンパクトにしても良いのではと思う。
その理由は2つある。
まずひとつめは運営の負担軽減につながるということだ。
宮古島大会は2019年まで長くの間、スイム3km、ラン42.195km、そしてバイクは150kmを超える距離で行われてきた。それゆえ競技時間が長いので、運営スタッフへの負担が高いという意見が、昔から一部で挙がっているということを私もよく聞いている。
そんな中、来年度に2019年大会のフォーマットへと戻せば、同様の声は前回並みに増えるだろう。ならば、これを期に以前の距離にこだわる必要はないのではないか。言い換えれば、無理に戻さなくても良いと私は考えている。
仮に、これまで大会運営の負担を訴えていた人たちが、今年のフォーマットを経験して「これならば無理なく続けられるかな」と思えたとしよう。それが少数であったとしても、結果、今まで以上に多くの地元の人たちがストロングマンを楽しめたことになる。
今年の競技終了時刻は午後6時36分だった。
これにより大会が終わったあと、「さあ家に帰って皆で飲もうか」というボランティもいたに違いない。
出場選手はもちろんのこと、ボランティアもレース終了後に各々のスタイルで一日を締めくくる。そんな楽しみが増えれば今後、宮古島大会の新たなスタンダードも創出されるのではないだろうか。
そして2つ目の理由は、競技距離のバランスである。
現役時代、毎年優勝を目標に参加した競技者としての立場から言わせていただくと、スイム3km、バイク150km超に対してラン42.195kmは距離のバランスが悪いと常々私は感じていた。
具体的にはランが長いということだ。
レースでトップ争いを繰り広げ、ラン勝負に入ったとき「42.195kmは長すぎるだろ〜!」と、毎回考えながら走っていたことを思い出す。
私が宮古島に初めてエントリーしたとき(1987年)は、スイム3km、バイク136kmに対してランがフルマラソン。91年からバイクが155kmへと延びたものの、それでもランの距離は長いと感じていた。
スイムを3kmとするならば、私の感覚だとバイクは130km〜160kmの間くらい。そしてランは30〜32kmあたりがベストなマッチングに思える。
これは私が現役時代に、何度か触れた距離バランスにもつながるのだが(※1)。
アイアンマンのように距離フォーマットが決まっているわけではないので、ランも42.195kmにこだわる必要はないと前々から考えていた中、今年はランが2周回の30km、バイクは123kmのコンパクトなコース設計に変更となった。
これが私的には非常にしっくり来ていて、「来年もこのままで良い」という理由のひとつに挙げているわけだ。
私は宮古島大会のような規模のレース運営に関わったことがないので、やはり自身の選手目線での考えを優先させてしまう傾向にあるのだろう。それゆえ、今回の持論は後者の理由(自分が考える理想の競技距離バランス)によるところが強いとも感じている。
このような考えは少数派なのかもしれない。
しかし、来年もバランスがとれた(と私が考える)同じ距離フォーマットで行えば、今年同様に競技時間がコンパクトになり、ひいては全体運営量が減ることにつながるというのが私の結論だ。将来的には新サービスの付加や運営精度の向上、そして何よりも大会の継続性に寄与するのではないだろうか。
そんな思いが巡った今回の宮古島大会だった。
(※1)現役時代、宮塚は宮古島の優勝争いで決着がつくのはラン35km前後が多いと指摘。スイム3km、バイク157kmに対して、ラン42.195kmはバランス的に設定が長いということがその理由だった。ゆえにスイム、バイクと消耗戦を繰り広げあと、ラン30kmを超えた領域でどれだけパフォーマンスを発揮できるかが勝負の行方を決めると見立てていた。
<著者プロフィール> 宮塚英也(みやづか ひでや)
1980年代中盤から2002年の現役引退までトッププロとして世界を舞台に活躍し、ロングディスタンス最高峰のアイアンマン世界選手権で日本で2度のトップ10入り、宮古島トライアスロン4勝を挙げるなどトライアスロン界を牽引。現役を引退した現在もコーチングなどで第一線を走り続けている。またトライアスロングッズの開発&販売(ハイディア・オンラインショップ)も展開。今年の宮古島では自身が取り扱う補給食『ライスピュレ』のプロモーションにも注力した。
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