宮塚英也がトライアスロン・アナリストとして、2022年アイアンマン世界選手権(ハワイ)でポディウムを獲得した男女4選手それぞれの走りの特徴をレース動画で解析。
本格シーズンインを前に、トップ選手のランニングフォームからタイム向上のヒントを得よう。
フォーカスしたのはチェルシー・ソダーロ(ハワイ女子優勝)、ルーシー・チャールズ-バークレー(同2位)、グスタフ・イデン(男子優勝)、クリスティアン・ブルンメンフェルト(同3位)の4人。モーションキャプチャーなどの先端技術も駆使してブラッシュアップされた走りを自身の『目』で確認し、イメージを刷り込ませれば今後のラントレーニングはさらに中身の濃いものになるはずだ。
あなたの走りに合った理想のフォームはあるだろうか? ぜひとも再生を繰り返し、そのイメージをインプットしていただきたい。
研究し尽くされた動作、洗練されたフォームがトップ選手の必須条件
昨年のアイアンマン・ハワイでグスタフ・イデンが記録したランタイムは2時間36分15秒。これまでのレコードタムを大きく更新し、レースの高速化をさらに印象づけることになった。(宮塚)
やはり注目されるのはランニング機材ともいえる『厚底&カーボンプレート入りシューズ』だろう。この登場がアイアンマンでも、タイムが飛躍的に進化した大きな要因なのではないかと考える。
ただ誤解してはいけないのは、単に厚底シューズを履いただけでランタイムが向上するわけではなく、その革新的アイテムを使いこなす研究&解析が結果につながっているということだ。
具体的には、自身のランニング動作の解析を徹底的に行い『パフォーマンスの最大化』『効率的な走り』などを明確に数値化。それを活かしてランタイムの向上につなげていくことは、もはや世界のトップで戦うための必須条件といえる。
そこで、ここではロングを中心とした4選手の走りのポイントをレース動画から解説していこう。
【チェルシー・ソダーロ(ランタイム:2時間51分45秒)】
〜 無理せずムダを省いたピッチ走法 〜
彼女の特徴は無理にストライドを伸ばそうとするのではなく、腕でリズムととりながら小気味よいビッチを刻む走りだ。
一見、足の着地はヒールストライクにも見えるが、スローで見てみると、前に振り出された脚はシッカリと戻りながら着地に入っているので、ほぼミッドフットストライクとなっている。後ろの脚はヒザが伸び切る前に、力強く地面を押し出しながら離足することで、無駄なくピッチが稼げており、特別速そうには見えないが実際には速いというフォームとも表現できるだろう。下のスーパースローで見ると分かりやすいだろう。
【ルーシー・チャールズ – バークレー(ランタイム:3時間02分49秒)】
〜 筋力を生かしたストライド走法 〜
こちらはピッチよりもストライドを伸ばして走るというイメージ。しかし、着地はソダーロと同じくミッドフットストライクで、決してオーバーストライドというわけではない。
チャールズ – バークレーは身体が大きく、筋力を生かして走るタイプといえる。ただ悪いフォームではないのものの、ランが得意な選手に比べると上体の動きなど若干エネルギーロスが多い印象を受ける。
今使っているエネルギーを、進行方向へとより効率よく使えるようになれば、飛躍的にランライムを伸長させる可能性を感じた。(下記はスパースロー)
【クリスティアン・ブルンメンフェルト(ランタイム:2時間39分21秒)】
〜 着地時の脚の筋力負担を軽減しエネルギーロスを最小限に 〜
彼のランフォームの特徴は深めの前傾姿勢と、どちらかといえばピッチ走法寄りのリズム。平坦路にも関わらず、下り坂を走っている様にも見えるくらいだ。
深い前傾をとることで、振り出した足の接地位置を身体に近い場所(真下に近いポイント)にもってきている。これにより着地時に足へのブレーキがかかりにくく、脚の筋肉への負担を少なくすることが可能。さらには後ろの脚で地面を蹴るのではなく、まるで転がる様に脚をきれいに回して推進力を生んでいるイメージだ。
このように効率よく脚がまわりエネルギーロスが少ないために、重めの体重であってもハイスピードで長時間走り続けられるのだと考えられる。
こちらも下記スロー映像で確認するとより分かりやすいだろう。
【グスタフ・イデン(ラン:2時間36分15秒)】
〜 厚底シューズの機能を上手く推進力に転化 〜
イデンの走りのリズムは、ストライド走法でもピッチでもなくその中間的なイメージ。着地はほぼミッドフットストライク。一見オーソドックスなフォームにも思えるが、スローだと厚底シューズの反発を利用して少しジャンプ気味になっているのが分かる。
そして両足が地面から浮いている瞬間は、1km4分を切るペースで走っているにも関わらず、全身が非常にリラックスできている。つまり脚が推進力を生みだす一瞬(着地〜蹴り出し)だけに力が入り、そのほかはリラックスしてエネルギーの回復を図る、こちらも効率の良さを可能とする走りといえる。
これら選手の中には来日してプロダクトメーカーのラボでフォーム解析を実施済みだったり、使用シューズ(メーカー)を今年変更したりと2023シーズンに向けて準備は万端のようだ。彼らの走りがどのように進化するのか楽しみでもある。
<著者プロフィール> 宮塚英也(みやづか ひでや)
1980年代中盤から2002年の現役引退までトッププロとして世界を舞台に活躍し、ロングディスタンス最高峰のアイアンマン世界選手権で日本人最高位(9位)を含む2度のトップ10入り、宮古島トライアスロン4勝を挙げるなどトライアスロン界を牽引。現役を引退した現在も、その卓越したトレーニング理論や分析力をもとにコーチングなどで第一線を走り続けている。またトライアスロングッズの開発&販売(ハイディア・オンラインショップ)や、ランニングショップ『ストライドラボ那須』を展開するなど活動は多岐にわたる。