カンファレンスでは登壇した選手の中央に座り、ディフェンディングチャンピオンとして受け答えをするローラ・フィリップ
日本時間の10月12日未明にハワイ島コナで行われるアイアンマン世界選手権。
2023年から実施されている、アイアンマン・ワールドチャンピオンシップ男女別地開催としての最後のハワイ大会に、女子のトッププロたちも集結。
9日の木曜日(現地時間)に実施された記者会見の模様から、レース展開の予想なども交えつつ、有力選手6人のコメントを紹介する。

.
ローラ・フィリップ(🇩🇪ドイツ)
2024年アイアンマン世界選手権(フランス・ニース)の覇者。ディフェンディングチャンピオンとしてハワイに臨むフィリップは今回、よほどの不調がない限り、どの位置取りにいてもレースの中心を担う存在となる。

驚愕の8時間03分13秒。
6月1日に ドイツ・ハンブルク(写真上)でアイアンマンの女子世界記録を打ち立てた 彼女は、粘り強く勝負に挑み続ける「強さ」に加え「速さ」を兼ね備えるプレイヤーとなった。
そのハンブルクでマークしたランタイムは 2時間38分27秒。バイク終了時にはルーシー・チャールズ – バークレー、テイラー・ニブなどに遅れをとるだろうが、ランスタート時のタイムギャップに注目したい。
その差がフィリップの想定内ならば終盤、レースを大きく動かすパワーを目の当たりにするだろう。
今シーズンの彼女はこれまで3戦3勝。
出場レースを絞りつつ結果を残している点も、注目度が高まった今年に限っていえば理想的といえる。

一昨年のハワイは最後まで粘りを見せて3位に。今年は主役として大舞台に臨む
「昨年はニースで勝てたので、だからこそここ(コナ)で勝利したい気持ちは強いです。(ニースで)世界チャンピオンになってメディア対応なども増えましたが、コーチでもある夫の完璧なサポートのおかげでバランスを崩すことなくトレーニングに集中できました。
今年は “女子の単独レース” として最後の世界選手権。8時間すべて、女性のレース展開だけがライブ中継されるということは本当に特別なことなんです」
.
ルーシー・チャールズ – バークレー(🇬🇧イギリス)
一昨年、同地(ハワイ)で行われた世界選手権の覇者。
昨シーズン後半は体調不良や脚の故障でレースから遠ざかっていたが、今年はすでに 6レースに出場して 4勝。5月のアイアンマン・ランサローテ優勝で早々とハワイへの切符をつかみ、この10月の大一番に向け順調にステップを踏んできている。

前回のハワイ優勝時 はスタートから一気に後続を引き離してバイクでも独走。1度もトップを譲ることなくレコードタイムをもマークしている。
得意のスイムももちろん49分36秒でトップフィニッシュ。
今回も同様の飛び出しを見せることは確実で、展開によってはライバルに影をも踏ませないスピードレースを再現し、ハワイ連覇を達成しても何ら不思議はない。

2023年、ハワイで行われた世界選手権で悲願の初優勝を遂げたチャールズ – バークレー。コナの女神は再び彼女に微笑むか?
「エイジ時代のコナ初出場から今年で10年目。毎年ここに来るたびに『帰ってきた』という感覚になります。
昨年、セリアック病(グルテン摂取に対して身体が過敏に反応し、自己免疫力に異常をきたす病気)を患いましたが食事などを見直してようやく体調が整い、今年はラントレーニングも継続的に取り組めています。
これまでで最も健康で、プレッシャーもなくただ自分の力を試したいというのが今の心境。2023年以上の完璧なレースを実現したいですね」
.
テイラー・ニブ(🇺🇸アメリカ)
2023年に初ハワイ、さらには初めてのアイアンマン出場で 4位を獲得。
周知のとおり2021年・東京、2024年・パリ五輪出場のオリンピアンにして銀メダリスト。パリではロードレース個人TTにも出場している。
アイアンマン70.3世界選手権は3連覇中で現在 PTO世界ランキング 1位という実績は、まさにスーパー・トップ・マルチアスリートと評せるだろう。

その一昨年のハワイの記者会見では、翌年オリンピックを控えながらも「2025年大会のために今回(2023年)出場を決めました」とコメント。満を持して、アイアンマン世界チャンピオン戴冠を目指しての参戦となる。
今年唯一のフルディスタンス出場となっている 4月のアイアンマン・テキサスでは、バイク終了までトップを独走しつつ T2 に入る直前に(軽く)転倒。それが影響したのかランでカット・マシューズに逆転を許したものの 2位は守り、世界選手権の出場チケットを獲得している。
また2023年のハワイでは、バイク途中でボトルを落とすというトラブルにも見舞われており、今回ロングの経験値を上げることが勝利への近道となるかも知れない。

2022年まではショートを中心に活躍していたニブ(写真はWTCS横浜大会)
「一昨年のレースを振り返ると、スタートしてからの7時間半までは最高の出来でした。でもバイクでエネルギーの60%を失っていたらダメですね。ボトルケージはちゃんと改良しましたよ(笑)。
コナは幼いころから憧れていた場所。家族みんなでテレビを見ていて、「ヘリコプターが追っているのが先頭だ!」なんて話をしてました。そんな舞台に再び立てるなんて本当に特別な気分です。
状況に応じて判断を迫られ、それが自分を知る機会になるのが(ハワイの)レースの面白さ。だからこそ挑戦しがいがあります」
.
カット・マシューズ(🇬🇧イギリス)
昨年からスタートした アイアンマン・プロシーリズ の2024年間ランキング 1位。2025年シリーズも現在1位をキープしていてシーズン連覇の期待もかかるブリティッシュ・トッププロ。
その一方で、トップ中のトップたちがしのぎを削り合う選手権レベルでは、これまで勝ち切れる力強さがどうしても足りない印象は否めなかった。

しかし今年は 4月のアイアンマン・テキサス(写真上)で当時の女子アイアンマン・レコードを更新して優勝(8時間10分34秒)。
6月のアイアンマン・ハンブルクではローラ・フィリップに遅れをとるものの(2位)8時間05分13分のタイムをマークしている。これはフィリップの驚異的なリザルトに隠れがちではあるが、2022年後半の大事故を克服して 着実にステップアップし、ハワイ表彰台の中央を視野に入れられるパフォーマンスを備えた証左でもあるだろう。

「今シーズンは1月からアイアンマンのプロシリーズと コナ を最優先に設定(ここまで70.3大会を含むアイアンマン・シリーズ4戦のみに出場)。おかげで期間を分けて、ブロックごとにトレーニングに集中できました。結果はさておき、ここまでの過程に価値を感じています。
(2022年の事故に関する質問に対して)あの経験、大怪我を経ても今こうして戦えている。だから自分にはもう怖いものはなく、たとえ何が起きても受け入れられるでしょう」
そんな泰然自若ともいえる感情は、ライバルとの激しい争いの中で大きな武器になるはずだ。
.
チェルシー・ソダーロ(🇺🇸アメリカ)

2022年の世界選手権・2日間開催のハワイで、アメリカ人女性としては26年ぶりにアイアンマン・ワールドチャンピオンのタイトルに輝いたソダーロ。
その後、多くのスポンサーにサポートを受けるなどするが、見えない重圧もあってか2024年までのメジャーレースでは2勝のみ。
出場する大会の半分は表彰台に立つリザルトを残すも、理想のパフォーマンスが発揮できないことが続いた時期は本人が一番もどかしかっただろう。
今シーズンは 8月のアイアンマン・スウェーデンで 3位に入り、滑り込みでハワイのスタートリストに名を連ねたが、本人はいたって前向きだ。

昨年9月のニース世界選手権で3位に入り再び世界の頂点に立つ準備は整ったか?
「ここのところのシーズンは、ジェットコースターのような浮き沈みが続きました。
昨年のニース(世界選手権)ではケガを抱えながらも表彰台を獲得できましたが、その後体調を崩したり子どもの風邪を何度ももらったり。だから今、こうしてこの場にいるだけで幸せな気分です。
ワールドチャンピオンになって学んだことは、勝っても負けても自分が変わらないことが大切だということ。どんな時でもベストを尽くすだけです」
.
ソールヴァイ・ルーセート(🇳🇴ノルウェー)
2024年パリ五輪の母国代表で WTCS出場のため横浜に来日したこともあるオリンピアン。
今年から本格的にロングに挑戦し、6月のハンブルク大会では初アイアンマンながらローラー・フィリップ、カット・マシューズに次ぐ 3位表彰台をいきなり獲得。それに加え、8時間12分28秒のフィニッシュタイムはまわりにさらなる驚きを与えた。

そして、わずか1カ月半後のアイアンマン・レークプラシッドで勝利を遂げ(写真上)、一躍アイアンマン・トッププロに名を連ねることに。今レース一番のダークホースといえるかも知れない。
9月に行われた男子アイアンマン世界選手権で表彰台を独占したノルウェー旋風を、女子でも巻き起こすことができるだろうか。

「今年は私にとって『新しいことに挑戦するシーズン』になりました。
結果を気にせず学ぶことを大切にしてきたので、(ここまでの成績は)正直なところ、すべての意味で驚かされています。
初めてのコナは自信半分、好奇心半分です。良いレースができる可能性はあると思いますが、こういった(ハワイの)環境での大会は初めてなので、実際に走ってみないと分かりませんね。
結果よりも『その日、自分にできることをすべて出し切る』。それが実現できれば満足です」
.
▶︎アイアンマン世界選手権(ハワイ島コナ)/プロレーススタート時刻
10月12日(日) 午前1時25分〜(日本時間)
⬇️ ライブ視聴はこちら:
YouTube(IRONMAN公式)配信リンク