歴代世界チャンピオンが共演したチャレンジ・ロス2022 / ハークがセントジョージから雪辱のV、ディトレフはハワイ有力選手にジャンプアップ

「ハワイは2度勝っているけれども、このレースはそれとはまた違うスーパー・エモーショナルな大会なんだ」
レース前のインタビューでパトリック・ランゲ(ドイツ)が語ったように、ヨーロッパを中心とした選手、特にドイツ人トライアスリートにとってチャンレンジ・ロート(7月3日開催・S3.8km/B180km/R42.2km)は特別な大会といえる。

スイムでロスの運河を泳ぐコースは現在も変わらない ©Challenge Roth 2022/Lars Pamler

その理由のひとつは、レースの歴史を紐解くと理解できるだろう。
オリジナル大会はアイアンマン・ヨーロッパとして1988年にスタート(開催場所は現在と同じドイツ・ロス)。当時、世界で数大会しかなかったアイアンマンのひとつ、そして、欧州では本家のハワイと双璧をなすロングディスタンスのトライアスロンとして注目を集めるレースだった。
特徴的だったのは “超” がつくほどの高速コースと、毎年豪華なトップ選手がラインアップするイベントということ。

ロス大会のハイライトのひとつとなるソーラー・ベルク(丘)。コース唯一といえる坂道は、この先さらに観客が押し寄せていてツール・ド・フランスの山岳ステージを彷彿とさせる ©Challenge Roth 2022/Lars Pamler

1996年には男子のアイアンマン・ディスタンスで、ロータ・レダー(ドイツ)が人類史上初の8時間を切り(7時間57分02秒)、翌年はベルギーのルク・ヴァンリルデがそれを上回る7時間50分27秒をマーク。しかもヴァンリルデは世界記録のボーナスとして、当時としては超破格の賞金約1,000万円を獲得したという歴史に残るレースとなった。

2002年からは現在の“チャレンジ・ロス”と名称&体制をかえて実施(距離はアイアンマンと同じ)。以降、年を追うごとに大会ネットワークを各国に広げ、『チャレンジ・ファミリー』としてシリーズ大会も増えている。

そして、このチャンレジ・ロスとなってからも男子では2016年のヤーン・フロデーノ(7時間35分39秒・当時)、2011年のクリッシー・ウェリントン(8時間18分13秒)のフルディスタンス世界記録が樹立されている。

歴代のアイアンマン世界選手権(ハワイ)チャンピオンも毎年といっていいほど出場しており、今年も男子はヤーン・フロデーノ(写真上)、パトリック・ランゲ(写真下)、女子はアン・ハークのドイツ人ハワイチャンピオンたちがエントリー。
一方で、フロデーノはアキレス腱のケガ、そしてランゲはバイクトレーニング中の事故により、5月にアメリカ・ユタ州セントジョージで実施されたアイアンマン世界選手権をキャンセル。これが今シーズンの復帰戦となり、多くのトライアスロン・メディアにも注目されていた。

バイクトレーニング中のアクシデントから復帰のパトリック・ランゲも自国レースでのシーズン初戦となった ©DCPpbh

フロデーノは、「春先のケガのために3カ月を失っていて、今回は(レースでの)完璧主義を封印する必要がありますね。ランのトレーニング量が十分ではないのですが体調自体は良く、気持ちも前向き。当日が楽しみです」と、レース前のプレスカンファレンスでコメント。

一方、ランゲは「バイクトレーニングでのクラッシュで手術をしたときは、今年のこのレースに出場できるとは思いませんでした。でもトレーニングは順調に進んでいてコンディションも良好。レースの結果に期待したいですね」と両名ともリカバーは順調のようだった。

そんな中、現地時間午前6時30分にスタートした男子プロは、フロデーノ(写真上)がスイムトップで上陸。バイクでは一旦ライバルたちに追いつかれたものの、4時間03分07秒のラップタイムをマークしてトップでランコースへ。
完全復活を期待させたものの、ランに入って間もなく(3km地点)して突如ストップ。自らアキレス腱を指すジェスチャーを交え、足元の不安が拭えないままリタイアとなってしまった。

ランのストップ後は、失望を隠せずマネージャーと抱き合う姿が印象的だった。

そのフロデーノをパスし、トップでフィニッシュしたのはデンマークのマグナス・ディトレフ(写真上)。こちらもバイクで4時間01分56秒という、過去にキャメロン・ワーフ(オーストラリア)がマークしているバイクレーコドを上回り、ランでも安定したペースを保って優勝した。

タイムは7時間35分48秒で、2016年のヤーン・フロデーノの大会記録に迫る強さだった。
ディトレフは今年4月に行われたアイアンマン・テキサスで、バイクでパンクに見舞われながらも2位を獲得。24歳の新鋭は、このレースで一気に男子プロ・トップに仲間入りしたといえる。

一気にトッププロとして注目を集めたディトレフ。バイクの強さがロングディスタンスでも大きなアドバンテージになるだろう ©DCPpbh/Simon Fischer

「レース前には自分が優勝できるとは思っていませんでした。ランでフロデーノとほぼ同じペースで走り出していたので、彼がストップしたときは驚いた。素直には喜べないけれども結果には満足してます」とディトレフ。

ランゲが「素晴らしい走りだった」と称賛し、その年齢からも大きな可能性を示唆するほどだった。
10月のアイアンマン・ハワイでは確実に注目を集める選手になるだろう。

今シーズン出遅れたランゲのパフォーマンスにも注目したい ©Challenge Roth 2002/Lars Pamler

そのランゲはバイクでライバルたちに引き離されるものの、ランラップでルク・ヴァンリルデのもつレコードタイムを上回る走り(2時間35分10秒)を見せて2位に。ケガからの復調を印象づけた。

プロ女子のレースは、このレースのディフェンディングチャンピオンであるアン・ハーク(写真上)が連覇。
バイク終了時にトップと5分差をつけられたが、得意のランでこちらも2時間46分04秒の驚異的なタイムをマークして逆転。総合でも8時間22分42秒という記録だった。
5月のセントジョージでは、『1』のレースナンバーを背負いながらも、ダニエラ・リフ(スイス)に10分以上の差をつけられて3位でフィニッシュ。しかし今回は本来の姿を確実に取り戻したことをアピールする走りとなった。

「暑さでものすごくハードなレースでした。苦しみましたがバイクでプッシュしてペースをキープできたのが良かった。その粘りのおかげで、ランの中間地点で逆転できる(トップに立てる)と計算できました」と、発揮したパフォーマンスに満足な様子だった。

今回の結果で、シーズン後半のヤーン・フロデーノの復調は厳しい印象となった。しかし、その一方でアン・ハーク、マグナス・ディトレフ、パトリック・ランゲはこのあとも、ロングのトライアスロン・シーンで主役の一端を担うことになるだろう。

【プロ男子結果】
1. Magnus Ditlev (DEN)  7:35:48
2. Patrick Lange (GER)  7:44:52
3. Reinaldo Colucci (BRA) 7:52:36
4. Bradley Weiss (RSA)  7:53:56
5. Robert Kallin (SWE)  7:59:35

【プロ女子結果】
1. Anne Haug (GER)    8:22:42
2. Fenella Langridge (GBR)  8:31:41
3. Judith Corachan Vacquera (ESP) 8:46:29
4. Laura Siddall (GBR)    8:53:31
5. Rebecca Clarke (NZL)   9:08:37

>> チャレンジ・ロス大会のホームページ ※リンク

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