PTOとワールドトライアスロンが『トライアスロン・ワールドツアー』を発表 〜 2027年に世界シリーズを再編、T100・WTCS・W杯を統合へ / 100kmディスタンスの五輪種目採用も視野に 〜

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「Professional Triathletes Organisation(プロフェッショナル・トライアスリート機構/PTO)とワールドトライアスロン(World Triathlon)は、両者が共同で進めてきたT100パートナーシップをさらに発展させ、2027年に『トライアスロン・ワールドツアー』を創設する」

今回、ワールドトライアスロンがそう発表したリリースは、当然のことながら関係者の大きな注目を集めている。
これは、今まで平行して進められてきた既存のカテゴリーにおける競技の構造そのものを再定義する規模の大改革であり、2026年以降に向けた競技シーンに強く影響を与えていくこととなるだろう。

ツアー年間100大会規模へ──“トライアスロン・ワールドツアー”の新しい地図

2027年にスタートするトライアスロン・ワールドツアーは、以下の既存シリーズを統合&再編することとなる。
・T100 Triathlon World Tour → T100 World Championship Series
・ワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズ(WTCS)→ T50 World Championship Series(名称変更)
・World Triathlon Cup → Challenger Series(新設)

これまでWTCS・ワールドカップ・T100 などが並立し、出場選手も行き交いするなど、全体像をつかみにくかった競技フィールドにおいて、距離カテゴリー(T100/スタンダード(51.5km)/スプリント)と大会レベル(World Championship/Challenger)を整理し直すかたちに。
これにより2027年以降、「T100」「T50」「Challenger」の3つのカテゴライズとして統一化される。
これにより年間約100大会規模のシリーズへと拡大する見込みで、新規イベントも含めた具体的な概要は2026年初頭に発表されるという。

競技の “統一ブランド化” と、一貫した放送プロダクトの制作へ

今回の改革で重視されている柱は2つある。
1)複数距離の統合ブランド化(T100・スタンダード・スプリント)
 →距離ごとの個性を明確に打ち出しつつ、商業的にも統一した価値を提供する。
2)単一で一貫したライブ放送プロダクトを構築
 →世界最高峰のアスリートの躍動を、年間通じて届ける新しい中継体制を築く。

これは、2024年10月にワールドトライアスロンとPTOが締結した12年にわたる長期戦略パートナーシップの具体的な成果であり、競技発展の持続性を視野に入れて進められてきたプロジェクトの一環といえる。

2026年の各シリーズ・スケジュール
この大きな改革がスタートするのは2027年だが、2026年のメジャーシリーズとなるWTCSとT100は予定どおり以下で実施される。
【 2026 World Triathlon Championship Series (10大会) 】
・アブダビ(3/27) ・サマルカンド(4/25-26) ・横浜(5/16) ・アルゲーロ(6/5) ・キブロン(6/20) ・ハンブルク(7/11) ・ロンドン(7/25) ・威海(8/29) ・カルロヴィ・ヴァリ(9/11) ・ ポンテベドラ(ファイナル:9/24-29)
【 2026 T100 Triathlon World Tour (9大会) 】
・ゴールドコースト(3/21-22) ・シンガポール(4/25-26) ・スペイン(5/23-24) ・サンフランシスコ(6/6-7) ・バンクーバー(8/15-16) ・フレンチリビエラ(9/19-20) ・ドバイ(11/12-15) ・サウジアラビア(11月) ・カタール(12/11-12)

2026年のWTCS横浜大会は5月16日に実施される

これらを経て、2027年以降の世界選手権は「T100」と「T50」に集約。
2027年から公式に世界チャンピオンの称号が与えられるのは次の2シリーズとなる。
•T100 World Championship Series(3種目合計で100km)
•T50 World Championship Series(スタンダード/スプリント)
そして、その下のカテゴリーとして Challenger Series が位置し、現在のワールドカップ大会を含む世界各地のレース名が並ぶこととなる。これらから、オリンピック予選への明確なステップも形成されることとなるだろう。
このような構造改革により、選手・チーム・大会関係者・メディア・スポンサーなどが成すイベントが、どのような座組で進んでいきつつ、整理されているのかを誰もが理解しやすくなるという狙いが含まれている。

今回の大改革の背景には、ワールドトライアスロンが世界有数のコンサルティング会社である Deloitte(デロイト)に委託して作成した詳細な分析レポートがあり、その主な論点はおおまかに次のとおりだ。
・トライアスロンには大きな潜在的価値がある
・ しかし市場は競争が激化しており、従来型の運営では発展が難しい
・ ワールドトライアスロンは「商業活動」と「統治機能」を明確に分離すべき
・ 現在の世界的競技団体の構造は複雑で分断されている(World Triathlon、PTO/T100、IRONMAN、Challenge Familyなど)

こうした状況を踏まえ、レポートではカテゴリーごとにフォーカスされた技術主導モデルから、包括的なビジネス主導モデルへの転換を強く推奨しており、「トライアスロン・ワールドツアー」創出は、その指針に沿った改革と言える。

今回の発表に際し、PTO のサム・レヌーフCEOは、
「この“新しい設計図”は、ワールドトライアスロンとのパートナーシップを次の段階へ進めるものであり、トライアスロンをより多くの人に届くスポーツとして広げていくうえで、大きなステップだと考えています。デロイトのレポートでも、収益面も含めて持続可能な運営モデルへの移行が明確に提言されており、それはアスリートとスポーツ全体の価値を最大化するという私たちのビジョンと完全に一致しています」

2023年よりワールドトライアスロンとのパートナーシップを一部のレースからスタートさせているPTOのサム・レヌーフCEO

「新たな『トライアスロン・ワールドツアー』のもとで、T100、T50、チャレンジャーという各シリーズをひとつのブランドと競技構造に統合することで、ファンやメディア、スポンサーを含むすべての関係者にとって、このスポーツの“全体像”が格段にわかりやすくなります。と同時に、この枠組みは、プロアスリート、国際競技連盟、資金面でこのツアーを支えるパートナー企業という三者の利害と方向性をしっかりとそろえ、私たちの運営体制がうまく機能していることを示すものでもあります」

「こうした強い協力関係と足並みのそろい方があったからこそ、PTOとアスリートは、新しいワールドツアーというプロダクトを短期間で立ち上げることに成功し、すでにトライアスロン界全体に目に見えるインパクトを生み出し始めているのです」とコメント。

12月上旬にカタールで行われたT100チャンピオンシップ。男子世界チャンピオンに輝いたヘイデン・ワイルド(中央)と女子チャンピオンのケイト・ウォー(中央左)。その両脇で祝福するワールドトライアスロンのアントニオ・アリマニー会長(左)とPTOのサム・レヌーフCEO(右) ©PTO / World Triathlon

さらに、ワールドトライアスロンのアントニオ・アリマニー会長は、この再編の狙いについて次のように説明。
「ワールドトライアスロンがデロイトに委託したレポートでは、私たちのスポーツには計り知れないポテンシャルがある一方で、その可能性を引き出すには、競争の激しくなる市場環境に合わせて変わっていかなければならない、とはっきり指摘されていました。
とくに重要なポイントのひとつは、ほかの国際競技連盟の例にならい、“ビジネスとしての運営”と“競技の統括・ルール作り”の役割を、きちんと切り分ける必要があるという点です。
そうした分析結果が、このプロジェクトのパートナーとしてPTOを迎え入れ、互いの強みを組み合わせることが、トライアスロンの長期的な発展につながる──という判断を強く後押ししました」

「T100ツアーとの協業はイベント運営、放送視聴者数、ビジネス面での関心といった点で、何が実現できるのかをすでに示しつつあります。また2025年に一緒にテストしてきた大会、さらには2026年に復活するWTCSロンドンなどを通じても、その可能性が見えてきました。
今回のステップは、そうした流れからごく自然に導き出された“次の一歩”であり、来年初めに『トライアスロン・ワールドツアー』の全容を発表したとき、それがトライアスロン、そしてパラトライアスロンの未来にどのような意味を持つのかを考えると本当にワクワクしています」

WTCS、オリンピックなどで実績を挙げ続け、今シーズンはT100シリーズを中心に活躍してきたヘイデン・ワイルド

冒頭発表のように「トライアスロン・ワールドツアー」は2027年に本格スタートする。
その中核となる T100 ワールドチャンピオンシップシリーズ と T50 ワールドチャンピオンシップシリーズ が、それぞれの枠組みで唯一の公式なワールドチャンピオンを決めるシリーズ戦となる。

一方、その“世界選手権レベル”の下には、前述のとおり新設される チャレンジャーシリーズ が位置し、現在のワールドトライアスロン・カップを含む世界各地のレースが組み込まれていく見通しだ。チャレンジャーシリーズは、T100ディスタンス、スタンダード、スプリントといった距離カテゴリーで構成され、各チャンピオンシップシリーズやオリンピック出場権を争うレースへとつながるステップとして機能していく。

オリンピック種目への展望

同時にPTOとワールドトライアスロンは、100kmトライアスロンという距離の五輪種目入りに向けた議論を進めていく考えも示している。
このアイデアは、2024年7月にハンブルクで行われたワールドトライアスロン・サミットで初めて提示されたもので、その要旨は現在の IOCの姿勢とも合致したものだった。

テイラー・ニブもPTOレースの顔のひとりとなっている

「今がこの構想を公表するベストなタイミングだと判断しました。
ここから時間をかけ、無理のない形で実現方法を作り込みながら、五輪種目実現によるメディアやパートナーシップ発展のチャンスについてもオープンに語っていけるからです。
今シーズンのT100ツアーでは、1月にスタートしたビジット・カタールとの5年契約、そしてここ数週間で発表してきたさまざまなニュースを通じて、このスポーツと組みたいと考える企業が本当に多いことを実感しています。
トップアスリートの “超人的なチャレンジ” と、一般参加レースが持つ市民ランナー・フィットネス・コミュニティの広がり、その両方に結びつけてブランドを打ち出せるスポーツ──そうした競技にパートナーとして関わりたい、という強いニーズがあるのです。」

2024年からスタートしたアイアンマン・プロシリーズは今シーズンを終え、内外に確立された印象をもたらす中、各国でのシリーズ戦もさらに拡張される方向に。また、欧州ドイツではロングディスタンスの雄としてチャレンジ・ロートが独自の存在感を示し続けるなど、俯瞰的に見た世界のトライアスロン勢力図に、2027年、大きなインパクトを与えることになる今回の発表。
まずは2026年シーズンの最初に、その改革の青写真がハッキリと見てとれることになるので注目しておこう。

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