ツール・ド・フランスにも登場する先鋭ドイツ車
チェコとの国境近くに位置するドイツ南東部の街、バイエルン州・ヴァルダースホーフで設立された総合バイクブランドの CUBE(キューブ)。
ルーシー・チャールズ – バークレーが今年、悲願のアイアンマン・ハワイ(世界選手権)優勝を果たし、トライアスロンバイク・メーカーとしての存在感もまた際立ってきている。
今年5月に開催されたPTOヨーロピアン・オープンで3位を獲得したチャールズ – バークレー。キューブとのコンビネーションは今シーズン終盤に完成形を向かえた
彼女がキューブのトライアスロンバイク使用をスタートさせたのが、コロナ禍から再びシーズンが動き出た2021年から。
ハイエンド・モデルとなる『AERIUM(エアリウム)C:68X SLT』は、高い泳力を武器のひとつとするチャールズ – バークレーを、レース全体を支配する危険な存在へとさらにプッシュするマシンといえ、2023年アイアンマン・ハワイでは180.2kmのバイクパートを4時間32分29秒のラップ1位で走破。スイムから一度もトップを譲ることなく圧勝劇を演じた。
写真上は、ドイツのキューブ本社から200km離れた場所で行われた チャレンジ・ロート のエキスポ会場で展示されていた AERIUM だ。ここで担当者からも得た情報には、走りのレベル関係なく、特にレース時に求められる “ストレスなく速く走るため” の要素を改めて確認することができる。
ちなみにこのブースでは、チャールズ – バークレーのポップも展示され賑わいを見せていた。
2019年のチャレンジー・ロートで優勝しているチャールズ – バークレー(右)。それ以来、ロートの大会には出場していないが来年はその姿を見ることができるか?
ヘッドまわりに凝縮された機能の数々
AERIUM の特徴的な機能のひとつは充実の給水システム。オプションによるパーツの付け外しや補給方法の選択が可能な車載タンクが大きく分けてふたつある。
ひとつはヘッドセットの上部に取り付け、DHバーの間に収まるフロント・ハイドレーションボックス(写真上/750ml)、それに加えフレームの下部(ボトムブラケット付近/写真下)に内蔵されたインフレーム・タンク(750ml)を使用することができる。
ボトムブラケット上部に位置するタンクは、サイドにあるパネルを外して出し入れする。また内蔵タンクを取り外し、オプションのストレージ・スペースとして利用することも可能だ
インフレーム・タンクは、フレームのダウンチューブ内部に補給する(吸う)ための細長いチューブを収め、呑み口をフレームのトップチューブに設けられたスペースから確保するという設計。
あわせてトップチューブには補給食や小物を入れることができるストレージ・ボックスを設置できる(写真下)。
どちらのハイドレーションシステムにも消費したドリンクを充填するための補給口があり、エイドステーションで渡されたボトルの口を差し込むだけで、簡単に水分の補充&携行が可能となっている。
ヘッドまわりに設置可能なボックス型のハイドレーション&ストレージツール。またツイン・ヘッドチューブと名付けられた二枚刃形状のフレーム前部デザインは、隙間の部分がヨコから受ける風を流す役割を果たす
ちなみにチャールズ – バークレーは、10月のハワイのレース時にはこのハイドレーション(2種類)、ストレージをフル装備していた(写真下)。
酷暑の中で多量の水分、そしてエネルギー摂取が必要となる長時間のバイクライドで走行ポジションを崩すことなく補給することが可能。そして補給物の携行性の高さや水分充填のしやすさは走りのストレス軽減、ひいては高いパフォーマンスの維持に寄与したことは間違いない。
さらに彼女は、サドル後部に設置するボトルケージ(2本分)も利用し、2.5リットルの水分を常に携行できる仕様としており、これもハワイのレースで利していただろう。
ハワイでのチャールズ – バークレーの AERIUM はそのレース特性を考え抜いた補給仕様となっていた
最速マーメイドをイメージしたハワイ仕様のデザイン
10月のアイアンマン・ハワイに登場した AERIUM は「人魚をテーマにした」カスタムペイントが施され、フロントフォーク先端には人魚のアイコンも配置。(写真をタップするとフルサイズで見られます)
着用するレーススーツ、そしてヘルメットもデザインが統一され本番でのでチャールズ – バークレーはまさに “最速のマーメイド” と化していた。
CUBE のカーボン・ラボによって形成されたカスタムメイドのDHエクステンションに、深く上腕を包み込むエアロ形状のカーボンパッドをセット(写真上)。
そしてホイールには DT SWISSS /ARC 1100 DICUT のリム高80mm前後ペアを使用していたのも特徴的であった。
トップサイクリストの走りも支える先鋭カーボンフレーム
この AERIUM C:68X のフレームは同社開発の 68Xカーボンと命名された素材がベースとなっている。
素材特性を活かしてデザインされたフレームは、シート&チェーンステーのリアまわりも特徴的な形状をみせる
メーカー担当者曰く、炭素含有量が全体の68%という高い数値を誇る軽量素材で、それをフレーム各部にかる荷重に対し適した配向で組み上げ、形成されたもの。軽量性と剛性という相反する要素を高いレベルに引き上げ、これに乗り心地を考慮した配分にてデザインされているという。
ちなみに総合バイクメーカーであるキューブのバイクは、ツール・ド・フランスにも出場しているワールド・サイクリングチーム「アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ(写真上/ベルギーのチーム)」が使用しており、同じ 68Xカーボンで仕上げられたバイクでレースに参戦している。
今年のツールを見てみると、通常ステージでは基本、エアロロードの「LITENING AERO(ライトニングエアロ)C:68X(写真上)」が投入されており山岳ステージも含めたオールラウンド性を発揮していた。
フレームデザインは近年のエアロロードの潮流に沿った洗練されたもので、走行時に前から風を受けるダウンチューブの前面は、抵抗を軽減するため細幅にシェイプ。後部は軽量化を狙って大胆に平面カットされた特徴的なレイアウト。
トライアスロンでも注目されているエアロロードの中にあって、空気抵抗値削減、軽量性と強度のバランスがトッレベルのバイクとして注目しておきたいところだ。
一方で AERIUM にはタイムトライアルバイクの「C:68TT」もアイアンアップしており、グランツールなどのTTステージではその最速モデルが登場する(写真下は2023年ブエルタ・ア・エスパーニャ)。
世界最高峰のサイクルロードレースの舞台で培われたノウハウもフィードバックされている CUBE。来シーズン、チャールズ – バークレーのバイクパフォーマンスがどう進化していくのかにも注目が集まることだろう。