最速TTバイク/五輪を制した “サーヴェロ・P5” を検証する

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ハワイ(アイアンマン世界選手権)で使用されるバイクのシェアNo.1であるサーヴェロ。トライアスロン&TTバイクのフラッグシップモデルとなるP5は、トップ選手を中心に高い人気を誇る。
同じくトライアスリートに人気が高いキャニオンやスペシャライズドは、レースのレギュレーションも考慮しトライアスロンバイク、タイムトライアル(TT)バイクそれぞれのラインアップがあるが、サーヴェロ/P5はUCI(国際自転車競技連合)の規格内に収まっているので、ツール・ド・フランスなどサイクルロードレースの個人TTステージでも使用されている。

今年のブエルタ・ア・エスパーニャでプリモシュ・ログリッチが使用したP5

さらにはこのP5は今夏に行われた東京オリンピック・男子個人ロードTTのウイニング・バイクに輝いている。
そのバイクを走らせたのはもちろんプリモシュ・ログリッチ。ブエルタ・ア・エスパーニャ3連覇、2020ツール・ド・フランス個人総合2位など輝かしい実績をもつスロベニアの英雄だ。実はこの個人ロードTTで2位に入ったトム・デュムラン(オランダ)とログリッチはオランダに籍を置くワールドチーム(ユンボ・ヴィスマ)の同僚。つまり、東京五輪のワンツー・TTバイクがP5ということになる。まさにオリンピックTT最速モデルだ。

プリモシュ・ログリッチが所属するユンボ・ヴィスマは今シーズンを通してサーヴェロのバイクを使用している。軽量オールラウンダーのR5、エアロロードのS5、そしてP5だ。
その中でログリッチ、さらには同チームが投入したP5を検証していくと、この先のファストバイクの新たな潮流を見て取ることができる。そのポイントを今年のツール・ド・フランスのバイクを中心に紹介していこう。

まず目につくのはフロントホイールのさらなるエアロ化だ。たとえば、これまでのツール・ド・フランスを見てみると、リム高が60〜80mm前後を利用するTTバイクが多い中にあって、今年のユンボ・ヴィスマはイギリス/エアロコーチ製のリムハイト100mmのフロントホイールを用意していた(下の左写真)。
実戦ではログリッチはフロント高80mm弱のモデル(右写真)を使用していたが、状況によっては100mmハイトのエアロホイールで走ることも想定していた。ほかにも同じエアロコーチ製ホイールを導入していたチームがいくつかあり、実際に使用していたライダーも数名いた。

こういったリムハイトが高いホイールは、風や起伏など、レースによる使用環境が限られるのだろうが、リスク承知でタイムを削り出す武器として準備しておくのが狙いといえる。これは今年のトレンドのひとつだった。

グラン・ツール(ロードレース)におけるTTは長いステージでも30kmを超える程の距離が多く、トライアスロン(特にロングディスタンス)での走り、ましてや前後にスイム、ランを行うレースとの比較は単純にはできないだろう。しかし「バイクを速く走らせる」ための要素において、100mmハイトのエアロホイールの登場は今後注目しておくべき流れだといえる。

ログリッチのTTバイクのフロントまわりには、もうひとつの特徴がある。それはディスクブレーキのローター径だ。今(2021年10月時点)となっては前モデルとなるデュラエースのディスクローターは直径160mmと140mmの2種類があり、フロントにはより高い制動力が得られる160mmを利用することが一般的。
しかしログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)のTTバイクには前後とも140mm径のローターがメイン装着されていた(写真下)。これは東京五輪でも同じ組み合わせであった。

この理由のひとつと考えられるのが軽量化だ。わずか十数グラムの差だが、それでも極限の走りの中でのアドバンテージを狙ったものではないだろうか。ほかの要因としては、小径ローターのチョイスにより、フロントまわりの取り回しが軽く感じられ、DHポジション走行により集中できるということも推測できる。
これらはライダーの感覚的な領域になるのかもしれないが、非常に気になったのは、ほかにもこの(140mmディスクローターの前後の)組み合わせを取り入れていたのが数チームあったことだ。
いずれにせよ、よりシビアなブレーキコントロールが要求されることになるが、それもトップサイクリストだからこそ可能なアッセンブルといえるだろう。

ログリッチのDHポジションにも注目したい。アタッチメントの取り付け位置が高く、アップライトなフォームはここ数年の主流となっているスタイルと変わりはない。さらには、ヒジ曲がりの角度が大きく、前腕が前上がりになっている。これにより上体にかかるテンションが緩和されやすくなるのだが、ログリッチはその方向性を好むのだろう。
こういったフォームは近年、トライアスロンでは多く見ることができるが、実際に同じようなポジションを可能とするDHバーも市販されてきているので、エイジグループの選手もチャンスがあれば試してみてはどうだろうか。

ちなみに、東京オリンピック後に行われたブエルタ・ア・エスパーニャのTTステージでは、フロントフォークやメーカーロゴなどをゴールドにペイント。さらには五輪のデザインをあしらった、金メダリストゆえに許される特別仕様のP5が登場していた。(写真下)

ここまでTTバイクのP5を紹介してきたが、プリモシュ・ログリッチはロードの平坦ステージではエアロロードのS5をメインに使用している。
エイジグループの選手の中にはロードモデルにDHバーを装備し、エアロホイールなどカスタマイズしてトライスロンの決戦用としてレースに臨んでいる人も多いはず。そういった視点でもログリッチのロードバイクは参考になる部分が多々あるのでそちらもチェックしてもらいたい。

>> トライアスリートはログリッチの足まわりに注目せよ <サーヴェロ/S5 Disc>

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