【コラム】2年目の『バブル』を迎えるツール・ド・フランス

    『レースバブル』。そんな聞き慣れないワードが昨年7月、ツール・ド・フランス(TDF)のメディア受付のリリースに盛り込まれていた。本来なら東京オリンピック2020が開幕を告げていた時期だが、ツール・ド・フランスも新型コロナウィルスの影響で2カ月の延期となっていた最中のことである。
     当時、コロナ禍でほとんどの国際大会が中止、あるいは延期となっていたのは記憶に新しいが、8月末からツールを敢行すると主催者がアナウンスをしたとき、メディアなどの関係者は正直驚きしかなかったはずだ。その理由はフランスのコロナ感染状況がまだ収束しきっていなかったこと。そして何よりも選手も含めた大会関係者4,000人がフランス国内を横断するイベントだということに尽きる。4,000人といえば日本のマラソン大会にたとえると中規模的なイベント。当時、軒並み中止となっていた日本の大会状況にあって、その中規模ランニング大会が全国を横断して行われるようなものだ(ツール・ド・フランスの毎年の全レース距離は3,500km前後)。日本ではちょっと考えられないことといえる。
     すでにご存知の方がほとんどだと思われるが、この『バブル』とは端的にいうと選手や選手関係者の完全隔離を目的としたオペレーション。アスリートたちをウイルス感染から守り、またもしも感染者が出たとしてもその影響を最小限に収めようというもの。今となってみれば、このバブルを運営方式に取り入れた最初の世界的なイベントが昨年のツール・ド・フランスだったといえる。

    チームプレゼンテーションの出番を持つ選手たち。レース時以外はこのスタイルが当たり前となっている

     その昨年のレースの模様をたどってみると、現在のバブル方式の運営の外郭を見ることができる。まず選手、そしてチーム関係者と主要なオーガナイザーなどを “Race bubble” という最上カテゴリーに位置づけ、3週間続く全21ステージの期間中、他のあらゆる関連者、ギャラリーからソーシャルディスタンスを担保。具体的にはレース会場だけでなく日々移動を繰り返すチームのホテルなどでも同様に制限され、選手の家族でさえ接することが許されていなかった。
     もともと各会場でのゾーニングにおいて、世界3大スポーツ(オリンピック、ワールドカップサッカー、ツール・ド・フランス)に相応しい完成度を誇るTDFではあるのだが、さらにエリアコントロールを厳格化。レース会場での選手取材ゾーンでもインタビュアーの数を各国制限した上、フェンスの仕切りで選手との距離を十分に確保。手差し棒を介して使用するマイクには消毒したカバーをインタビュー毎に付け替えるなど、細かい点までルール化されていた。
     新型コロナウイルスの検査体制も拡充。レース期間中、PCR検査のための移動式車両を帯同させて、都度、出場するライダーの健康状態をチェック。大会期間中2日ある休息日には “Race bubble” に位置づけられているレース関係者全員の一斉検査も実施。さらには、フランス国内の感染状況の悪化が進んだステージ後半は、無観客(スタート&フィニッシュ会場)で行われていた。
     しかし、そんな中でも大会期間中、「(レースの)途中打ち切り」が取り沙汰されることもあり主催者、選手、メディアなど大会に関わる全員が高い緊張感に包まれた中で行われていたレースでもあった。

    今年のチームプレゼンテーションに「密」の回避はなかった。来年はマスクも外されていることだろう

     そして2年目のバブル運営を迎えた今年のツール・ド・フランスだが、レース前の雰囲気は昨年とは随分と変わり穏やかなものになっている。これは6月上旬からフランスの規制緩和がスタートし、ワクチン接種の進展など、コロナの収束が視野に入ってきたこともあるだろう。しかし、昨年の経験を経て運営方式を確立させたという点がやはり大きく、さらにはそこからアップデートしている部分も多々見られる。
     たとえば今年のステージ後半ではピレネー山脈中に位置するアンドラ公国でフィニッシュし、休息日を挟んで再びフランスへと戻るルートなのだが、その休息日にツールに帯同している者すべて(運営スタッフ、メディアなど)にPCR検査を行う予定。これはフランス入国に関する現在の規定に沿ったものだ。

    大会スタッフが背負っているビールサーバーのようなものの中身は消毒液。この移動式消毒スタッフは昨年時から導入されている

    メディアの受付の前にPCR検査の陰性証明書が必要。その確認書(右)を発行してもらい手続きに移る

     そういったアップデートも加えたバブル運営を、大会の主催者は「適応スキルの進化」と評している。実際の現地では、レース2日前に行われたチームプレゼンテーションでの観客の応援など、目のつくところで平時のツール・ド・フランスに戻りつつある雰囲気が感じられた。来年は完全に元の姿を取り戻しているだろう。
     今年、パリ・シャンゼリゼへと戻るグランドフィナーレは7月18日。その1週間後に東京オリンピックが開幕するが、これらのビッグイベントを経て、1日でも早く「スポーツの平時」が戻ってくることを願おう。

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