8月28日(土)にスロバキアの西部・シャモリンで世界中のプロトライアスリートが注目するレース、コリンズ・カップが開催された。ここで「世界のプロ」と記したのはこのイベントに総額150万ドル(約1億6,500万円)の賞金がかけられていた点で、トライアスロンでは最大規模といえる。
さらに、日本時間の午後8時からスタートしたレースは世界約100カ国・地域にわたりテレビ放映され、開催エリアとなるヨーロッパ時刻では午後12時30分から午後7時ごろまでのレースプログラムとなった。それだけでも今回のコリンズ・カップの規模が分かろうというもの。専用アプリでのインターネット放送でもライブ配信されたが、途中で何度もフリーズするアクセス状況でもあった。
3人ずつのマッチが全12レース。世界選りすぐりの選手たちの共演がテンポよく続いた
レースのフォーマットはこれまでにないユニークなもので、各国から選りすぐられた男女36人の選手が、欧州圏のアスリートで構成されるチーム・ユーロ、アメリカ選出のチームUS、そしてそれ以外の国のメンバーからなるチーム・インターナショナルの3チームに分かれて争う団体戦。各チームから1名ずつを選出し、3人だけのレースを12戦行い、各レースの順位(1〜3位)とタイム差に応じてポイントを換算。全12マッチのトータルで最多のポイントを獲得したチームが優勝するという内容だ。大会ホームページから実施された全レースの模様がオンデマンドで見られるので、詳細はそちらにまかせるとして、ここでは注目すべきポイントを簡潔に挙げてみよう。 >> コリンズ・カップの大会HP ※リンク
◎ゲーム性の高いチーム対抗戦
3人だけのマッチを女子6レース、男子6レースに分けて実施。レースはそれぞれ10分おきにスタートし、テンポよくイベントが進んでいく。TV放送は各マッチの進捗を同時進行で追い、その時点での選手の獲得ポイントやチーム順位などをライブで表示するなど、見る側を飽きさせないゲーム性の高さが感じられた。
各マッチの順位状況や出場選手のインタビュー映像など、豊富なコンテンツが盛り込まれるなど “観戦するトライアスロン” を具現化
◎豪華な出場選手と魅力のマッチメイク
各レースの競技距離はスイム2km、バイク80km、ラン18kmのミドルディスタンス。アイアンマンを主戦場にしているアスリートから51.5kmで実績を残す選手すべてをカバーできる設定で、ロングとショートのトップアスリートが顔をあわせる豪華マッチも実現。たとえば、マッチ1(第1レース)ではアイアンマン世界選手権を4度制覇しているダニエラ・リフと東京オリンピック女子トライアスロン出場のテイラー・ニブが競い合うなど、トライアスリートなら目が離せないレースメイクとなっている。
マッチ3(第3レース)には東京オリンピック女子トライアスロン銅メダリストのケイティー・ザフィアエスが出場。TTバイクで疾走する光景にも注目が集まった
ルーシー・チャールズ-バークレー(写真)、パトリック・ランゲ、セバスチャン・キーンレなどの目移りしそうな豪華選手がラインアップ
◎トライアスロン界のレジェンドたちがチーム監督に
脇を固める役者たちも豪華そのもの。各チームのキャプテンとしてマーク・アレン&カレン・スマイヤーズ(US)、ノーマン・スタドラー&ナターシャ・バドマン(ユーロ)、サイモン・ウィットフィールド&リサ・ベントレー(インターナショナル)とトライアスロン界のレジェントたちが抜擢されている。
インタビューを受けるマーク・アレン(中央)とカレン・スマイヤーズ(右)
◎プロトライアスリート・ランキングの確立
今回選出されたアスリートたちは2014年に設立されたPTO(Professional Triathletes Organization)ランキングの今シーズンの上位選手が中心。アイアンマン世界チャンピオンからオリンピックメダリストまで、トライアスロンシーンの今を牽引している豪華な面々が自ずと顔をそろえることになった。
レースの主催者(PTO)はこの選出基準としているシステム(ランキング)を、ゴルフやテニスの世界プロランキングをモデルに創設したとしており、そういう意味でコリンズ・カップは、テニスの年間王者決定戦となるATPファイナルズと同じ位置付けになるといえる。賞金の総額も1億6,500万円と、他のメジャー・プロスポーツに匹敵するもので、今回のレースが継続されればさらにランキングの価値が高まることになるだろう。
PTOランキング男子1位のヤーン・フロデノももちろん出場。男子のオープニングレースとなるマッチ7を制した
この世界の注目を集めたといえるイベントは、ヤーン・フロデノ、パトリック・ランゲ、セバスチャン・キーンレ、さらにはダニエラ・リフの男女のアイアンマン・ハワイ覇者やルーシー・チャールズ-バークレーなど、欧州を代表するトップ選手たちを擁したチーム・ユーロが優勝。メンバーたちは記念すべき勝者の証であるコリンズ・カップを最初に掲げることになった。
レース後に行われたセレモニーでは欧州代表の12人とチームキャプテン(ナターシャ・バドマン、ノーマン・スタドラー)たちのシャンパンファイトも繰り広げられた
さて、このコラムタイトルに戻るのだが、今回のコリンズ・カップはトライアスロンの新たな歴史を刻んだといえるのか? 答えはイエスだ。破格といえる賞金総額、チーム対抗の要素など見る側を飽きさせない演出、そして何より世界のトップ選手が見せるパフォーマンスなど、これまでに類を見ないエンターテイメント性をふんだん盛り込んだ観戦型トライアスロンの誕生。そして、その源泉になっているPTOランキングは今後、多くのプロ・トライアスリートのベクトルに影響を与えるはずだ。そういう意味でも、トライアスロン界に新たな価値観を創出したイベントといえるだろう。
レースはすでに終了しているが、大会ホームページからその模様が視聴できるので、興味がある人はぜひともチェックしていただきたい。
>> コリンズ・カップの大会HP ※リンク
スロベニア・シャモリンに集まった大勢のギャラリーたち。来年の開催地が気になることろだ