アイアンマン世界選手権2023・ニース大会。そのレースプロフィールに迫る ①

IM 世界選手権

「2023年のアイアンマン世界選手権は、女子レースをこれまでどおりハワイ島コナで、男子はフランス・ニースで実施する」
注目されていたワールドチャンピオンシップ分割開催のガイドラインが発表されてもうすぐ1カ月が経つ。

ここでは、アイアンマン世界選手権2023・ニース大会(男子レース)についての情報を2回にわたって検証。その第一弾は「なぜニースなのか?」について、この地とトライアスロンとの関係性、そして歴史をもとにひも解いていく。

南仏、コート・ダジュール。ニースは風光明媚なロケーションでも有名だ © A.S.O./Pauline Ballet

その前段として知っておきたいのは、40年以上の年月を育んできた世界選手権ハワイ開催の歴史を2箇所で実施することに変更となった理由。
それは、アイアンマン・シリーズの拡大にほかならない。
今や全世界で167レース、21万1,000人の完走者を数えるまでに発展したアイアンマン・シリーズ(70.3レースなども含む)。フルディスタンスに限れば、約50あるレースの頂点に立つ世界選手権の出場枠拡充は必須の状況だった。

そこにコロナ禍の影響(2度のハワイ開催延期)を経て、まず2022年5月にアメリカ・ユタ州セントジョージで世界選手権を実施。同年10月、ハワイ島コナで史上初の2日間開催としてレースが行われたのは記憶に新しい。

主催者は実質3レースで2019年終盤から世界選手権出場の権利を有していたアスリートたちの舞台を担保するフローをつくり、完遂することに成功。
そして2023年は前回ハワイでの実績をもとに、継続して2日間開催することを予定としていた。

しかし、その一方でハワイの地元コミュニティの負担は増大。2022大会に関わった警察官の増員や交通渋滞、規制の長時間化。地元への経済効果が想定以下だったことなど、レースを終えての問題点が表面化し、行政側が(2日開催の)受け入れが不可能であることを、早い段階でアイアンマン・グループに伝えていたという。これにより大きな軌道修正を余儀なくされたのである。

では、なぜニースなのだろうか。
その理由のひとつとして考えられのが、2019年のアイアンマン70.3世界選手権開催地としての実績だ。
コロナ禍で2020年に入り世界のレース開催が止まる前、最後に70.3世界選手権開が開催されたのがフランスのニース大会(9月)。それから2年の歳月を経て、初めてアイアンマンの世界選手権が実施されたのはフルディスタンスではなく、アメリカ・ユタ州セントジョージでのアイアンマン70.3だった(2021年9月)。

当時もコロナ禍の真っ只中といえる状況だったが、セントジョージでは感染防止のための厳格な運営プロトコールを取り入れるなどして実施にこぎつけ、アイアンマン再開のロールモデルとなった。
そしてその翌年、同じ地でフルディスタンスの世界選手権(2022年5月)が実施されたことは、主催者にとっても大きな成功体験だったといえるだろう。

2021年9月。コロナ禍で初めて実施されたといっていいトライアスロンの世界選手権がアイアンマン70.3だった

そもそもフランス・ニースでは2005年からアイアンマンが行われており(現在は70.3大会も併催)、2019年の70.3世界選手権はその実績を活かした開催でもあった。
レースの前後はあるものの、そんな背景を切り取ると、ニースはセントジョージと似通ったプロフィールをもっているともとれる。

コロナ禍になる前年に実施されたアイアンマン70.3世界選手権・ニース大会。このときの男子優勝はグスタフ・イデンたった © Nigel Roddis/Getty Images for IRONMAN

さらにニースとトライアスロンとの関わりをさかのぼっていくと、1982年にスタートしたニース・トライアスロンに行き着く。このレースは翌年、スイム3km、バイク120km、ラン32kmで開催され、ニースはヨーロッパのロングディスタンス・トライアスロン発祥の地ともされているのだ。

その後、レースは『Triathlon international de Nice』(ニース国際トライアスロン)へと発展し、米国のハワイ、欧州のニースと、当時のトッププロたちにとって双璧を成すほどの存在に。
1994からはITU(国際トライアスロン連合)ロングディスタンス・トライアスロン世界選手権としても幾度と開催されている。

1999年ニース・トライアスロンの男子表彰台。優勝はクリストフ・マウフ(アイアンマン・ランサローテ、スイス優勝)。写真右はルク・ヴァンリルデ(アイアンマン・ハワイ2勝)、左はライナー・ミュラー(1992年ITU世界選手権2位、1995年ハワイ3位)。ニースはロング〜ショートまで世界のトップ選手が集うレースでもあった

歴代の優勝者には男子はマーク・アレン、サイモン・レシング(ITU世界選手権4勝)、ルク・ヴァンリルデ(写真上)。女子はポーラ・ニュービー – フレイザー(アイアンマン世界選手権・ハワイ8勝)、エリン・ベーカー(ハワイ2勝)などレジェントたちの名前がずらりと並ぶところを見ても、レースの世界的な位置づけを伺い知ることができる。

その後、これらの土壌を引き継ぎ、2005年に産声を上げ行われているのがアンマン・フランス(ニース)となる。

南仏の町並み、さらには山岳バイクコースが舞台のメインとなるのもニースならではだ Photo by Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images for IRONMAN

ちなみに現在、この大会のレースディレクターを務めているイヴ・コルディエ(写真下)は、実は現役時代、先のニース・トライアスロンでマーク・アレンと幾度もデッドヒート(2位1回、3位2回)を繰り広げた元トップトライアスリート。
さらには、今回のアイアンマン世界選手権誘致のキーマンのひとりであるエスロシ・ニース市長は、最初にニース国際トライアスロンが開催されたとき、市の副スポーツ・ディレクターを務めていたという。
このように、いろいろなピースがそろい、ニースでのアイアンマン世界選手権開催へつながっていったといえる。

ニースの海岸線をバックに。写真中央が過去のニース・トライアスロン4勝の実績ももつポーラ・ニュービー – フレイザー、左はアイアンマン・コーポレーションCEOのアンドリュー・メシック。そして右がイヴ・コルディエ

そして、要因の最後に挙げられるのが地元のスポーツイベントに関する理解度の高さだ。
これまでもアイアンマンやマラソン大会など、いわゆるスポーツ・ツーリズムにニースの行政は積極的。

また、毎年3月には世界トップランクのサイクルロードレース『パリ〜ニース(写真上)』が実施されており、このレースは今年で90回の歴史を誇る。2020年にはツール・ド・フランスのグランド・スタート地点にも選出。さらには2024年ツールの最終ステージ・フィニッシュをニースで行うと昨年末発表され、自転車界からも大きな注目を集め続けている。

2019年にはニース競技場にてFIFA 女子ワールドカップの6試合が実施。
今年フランスで行われるラグビー・ワールドカップでは4ゲームの開催地となるほか、国際テニストーナメント、フィギアスケート世界選手権など、さまざまなジャンルの国際的イベント開催の実績、予定がある。

2020年のツール・第3ステージのスタート地点にもなったスタッド・ド・ニース(ニース競技場)。毎年6月のアイアンマンでは、途中このスタジアムを遠目に見ながらのバイクコースも含まれる © A.S.O. / Pauline Ballet

その新たな歴史の1ページに加えられるアイアンマン世界選手権。
次回のコラムでは想定されるコースなど、詳しいプロフィールについて迫っていこう。
>> アイアンマン世界選手権2023・ニース大会のHP ※リンク

【アイアンマン世界選手権2023・ニース大会プロフィールに迫る ②】※リンク

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