写真は2022年ニースで行われたアイアンマン・フランス女子優勝のスヴェンヤ・トース(ドイツ)。今年9月の世界選手権も同じ会場でのフィニッシュとなるだろう
「Nice and NICE。レースに出場するのが待ちきれないね」
先日、2023レーススケジュールを発表したヤーン・フロデーノ(ドイツ/アイアンマン世界選手権3度優勝・北京五輪金メダル)のシーズン最終戦、そして自身、プロとしてのキャリアの締めくくりとなる大会に選んだのが今年9月、フランス・ニース(NICE)で初めて行われるアイアンマン世界選手権だった。
紺碧の地中海に臨むニース。観光やリゾート地、さらにはスポーツの街としても知名度を誇る
昨年11月、これまで40年以上の歴史をハワイで育んできたワールドチャンピオンシップの開催地を、2023年からは2カ所に分けて実施するとシリーズを運営するアイアンマン・グループが公表。現行のハワイに加え、新たな舞台としてニースの追加が1月にアナウンスされていた。
それについては各方面から賛否の声も挙がっていたが、とにもかくにもこのスケジュール(今年は女子のレースをハワイ、男子をニースで。そして翌年以降は男女開催地を替えて実施する)は2026年まで続くことが決定している。
欧州で初めて実施されるアイアンマンの世界選手権はどのような大会になるのだろうか? そのプロフィール探求の続編は、予測されるコース概要にフォーカスする。
「ニースのレースは自分にとって非常に大きなチャレンジとなるだろう」(フロデーノ/写真下)
オリンピック金メダリストでありアイアンマン世界選手権を3回制覇。未踏の地を切り開いてきた中で “GOAT(史上最高の)” とも評され、最も完成されたトライアスリートのひとりと誰もが認めるフロデーノ。その彼が警鐘を鳴らすわけは、アイアンマン・フランスのコースを想定しているからにほかならない。
周知のとおりニースでは毎年6月にアイアンマン・フランスが実施されており、とりわけ山岳部がメインとなるバイクコースが特徴で有名だ。
一方で、9月10日に実施される世界選手権がどのようコースで行われるかはまだ発表されていないが、現実的には(既存の)アイアンマンと同じプロフィールになると考えるのが自然だろう。
その理由は開催地のロケーションにある。
地中海を臨むコート・ダジュール(青い海岸)。スイムはニースの街に面するビーチを舞台に、ランは風光明媚な海岸沿いを走る。世界選手権もこの地の利を生かさない手はないはずだ。これについては先日に発表された、6月大会のコース・レイアウトを参照してもらいたい。(© IRONMAN FRANCE NICE 2023)
紺碧の地中海を舞台に展開するスイムコース。6月のニースはアイアンマン・レースのコースを基調とした70.3大会が併催されている。ランコースは市街地からニース・コート・ダジュール空港(イラストの左側)までを往復する海岸線のフラットなレイアウトだ
そして夏のバカンス地としても知られる風光明媚なエリアからは、遠く北にアルプス山脈が広がる。つまり平野部を離れれば離れるほど自然と行路は険しくなっていくわけだ。
ニースの地でバイク180kmのコースを完成させるには、山手に向かったレイアウトをトレースすることが必要となり、ゆえに9月のレースは既存アイアンマンがベースになるというロジックとなる。これも主催者がFBで発表している、6月大会の動画コースシミュレーションを見ていただければわかるだろう。
キーポイントとなるのはバイクコース
その一方で、昨年5月にアメリカ・ユタ州セントジョージで開催されたアイアンマン世界選手権の実績にも注目したい。
この地では毎年70.3レースが行われており、フルディスタンスで行われたアイアンマンではそのコースをベースとしつつも、ランは大幅にレイアウト変更するなどして世界選手権ならではの難易度を演出していた。世界最高峰を決するレースとして、既存の70.3大会とはまた違ったプロフィールを打出したかったのだろう。
セントジョージのバイクコースも大陸的でアップダウンの激しいレイアウトを生かしたプロフィールだった
さらには、ニース大会のレース・ディレクターはイヴ・コルディエ氏。
1990年代前半にマーク・アレンと同じ地でデッドヒートを繰り広げた元トップアスリートで、もちろん9月のレースも重要な役割を果たすことになる。6月のニースに、大きなアクセントを付け加えても何ら不思議はないだろう。
たとえばランならば、ニース市街の中心部までコースを延ばすことができれば歴史的建造物やコンベンションセンターを間近に、さらにはスポーツに造詣深いニースの人たちの声援をより多く受けられるなど、レースの彩りはさらに華やかなものになる。
ニースのわずか14km東にはモナコ公国が位置し、30km先に行くとイタリア国境が待ち受ける。さすがに国をまたぐレイアウトは考えにくいが、世界選手権ならではの大きな特徴をあえて打ち出すとするならば、やはりバイクコースに手を加えることになるのではないか。
そこで、このコラムではレース攻略の重要ポイントにもなるバイクコースに焦点を当て、6月のニース大会のレイアウトを紹介。さらには、仮に世界選手権オリジナルのエッセンスが付加された場合、そのガイドラインとなりうる要素を TRIATHLON LIFE 目線で切り取っていくことにする。
まず、6月のバイクコースの特徴は、なんと言っても標高差だ。
ニースの市街地からまずは西へ。ニース・コート・ダジュール空港までは海岸線のフラットなコースを進む。そこからスタッド・ド・ニース(ニース競技場)を右前方に見ながら北西へ進路をとると、アルプ・ダジュール自然公園がルートのメインに。20km地点から山岳区間が始まることとなる。(© IRONMAN FRANCE NICE 2023)
ここからの上りは平均勾配は3.3%であるものの、最初の4kmで10%~15%の勾配区間が3つ待ち受けているという。その後もマウンテンコースは続き、最高到達点は標高1,200m、累積標高は2,400mに達しアイアンマン・シリーズの中でも屈指の難易度を誇る。
“GOAT” フロデノをもってして「非常に厳しいレースになる」と言わしめる所以だ。
一方で110km地点での下り区間では、映画の舞台でも有名という Clue de Gréolières(クリュ・ド・グレオリエール)の町並みを通るなど、やはりバイクコースが大会プロフィールの多くを占めるといえるだろう。
6月の大会が、ニース市街から北西エリアをバイクの舞台としているのは、参加者にチャレンジングなコースと、南アルプスの玄関口ならではのとっておきな景観を提供するためともとれる。
注目したい2020年ツールのバイクコース
では、仮に9月のニースが世界選手権オリジナルのバイクコースとしてリリースされると想定した場合、どのようなエッセンスが考えられるだろうか。
そのヒントになり得ると TRIATHLON LIFE が目するのが 2020年に行われたツール・ド・フランスだ。
ツールの2020年大会はニースがグランデパール(最初の出発地)で、しかも第1、第2ステージはニース発着のコースレイアウトだった。
下記のコース図を見てもらいたい。これはツール・ド・フランスの取材者などに与えられるロードマップの一部で、関係者はこれらをもとに日々のレースに随行していくこととなる。その2020年時のものだ。
【ツール・ド・フランス2020/第1ステージ】
第1ステージの距離は156kmで最高標高が540m、第2ステージは186kmで標高1,600m超。いずれもニース市街から北部へと進んでいく山岳ルートだった。
6月のアイアンマン・ニース大会は北西部エリアが舞台となるわけだが、2020年ツールも、標高差もさることながら、テクニカルなコーナーが多く待ち受けるなど、非常に難易度が高いコース。世界最高峰のサイクリストたちが競いあった、この上ないタフなレイアウトだったといえる。
自転車大国のフランスにとって、ツール・ド・フランスというのは特別なイベントで、地元ニースの人たちも今だに2020年の光景は印象に残っているだろう。しかも2024年ツールの最終フィニッシュ地点は、パリ五輪の関係からシャンゼリゼではなく、ニースということが決まっていて、今からその気運が高まっている状況といえる。
当然、アイアンマンの主催者もその内容には注目しているはずだ。
【ツール・ド・フランス2020/第2ステージ】
以上からもニースの北〜北西部エリアは、どのルートを沿っても様々な特徴のある、バリエーション豊かなプロフィールを描くことが可能ということがわかるだろう。
さてアイアンマン・ニース大会の主催者は、9月の世界選手権をどのようにデザインしていくのだろうか。
これらを踏まえた上で、その大会プロフィールを追っていくのも一興ではないだろうか。
>> アイアンマン世界選手権2023・ニース大会のHP ※リンク
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