『トリプルクラウン』クリスティアン・ブルンメンフェルトが70.3ワールドタイトルも獲得 / アイアンマン70.3世界選手権・男子プロが開催

IRONMAN

世界104の国と地域から総勢6,000人超のアスリートがエントリーして、アメリカ・ユタ州セントジョージで2日間実施されたアイアンマン70.3世界選手権。
プロレースは10月28日の女子に続き、29日に男子がスタートした。

レースの中心になると予想されていたのは、10月8日にハワイで行われたアイアンマン選手権覇 優勝のグスタフ・イデン(写真下)、同3位のクリスティアン・ブルンメンフェルトのふたりのノーウィージェンだった。

ハワイではバイク終了時までほぼ同じ位置どりでレースを進め、2位と3位でランコースに飛び出しトップを追走。イデンが2時間36分15秒のラン・コースレコードで逆転優勝を果たし、ブルンメンフェルト(写真下)は3位に甘んじていた(ランラップ2時間39分21秒)。

これについて本人は素直に同胞の勝利を祝福するとともに、自身のリザルトには納得できていないことも示唆。当初は予定していなかったようだが、今回の70.3世界選手権に参戦を決めたという経緯がある。
ふたりはチームメイトで友人でもあり、同じレースに出場するときは常に一緒に行動する。その一方でお互いが強力なライバルであることも認識している仲で今回、ハワイのときのような激しい再戦なるかにも注目が集まっていた。

レースは、前日と同様に水温17℃という厳しいコンディションの中スタート。スイムはアーロン・ロイル(オーストラリア/写真下左)、ベン・カヌート(アメリカ)などが上位で上陸するが、彼らから20秒遅れてスイムを終えたブルンメンフェルトがすぐさまバイクでトップに立った。

これは、ブルンメンフェルトとしては非常にアグレッシブなレース展開だ。
これまで5月の アイアンマン・セントジョージ や10月のアイアンマン・ハワイのバイクパートでは、いずれも先頭にこだわることなくチェイスパックの好位につけ、ラン勝負に持ち込むという戦術をとっていたからである。

さらには今回、特にバイク序盤は何度も後ろを振り返るシーンが目立った。
これは、なかなか引き離せない後続ライバルたちを確認するというよりは、さらに後方にいるはずのイデンの位置が常に気になっての動きだったと思える。

アイアンマン70.3シリーズのバイクコースで屈指の難易度を誇るセントジョージ大会。写真はレース注目スポットのひとつであるスノーキャニオンの光景

3週間前に行われたハワイで、イデンとブルンメンフェルトのランラップの差は3分強。
他を圧倒してのランパフォーマンスで勝利をつかみ取るパターンを得意とするブルンメンフェルトにとっては、ショッキングな結果だったに違いない。
ゆえにレース距離は(アイアンマンの)半分であるものの、やはり今回最大のライバルに定めたイデン(写真下)に対し、バイク終了時にできるだけリードを奪っておきたかったはずだ。

対するイデンは後方でもがいていた。
10月8日のハワイで激闘を演じたダメージから回復できていなければ、バイクで厳しい起伏が多く待ち受けるセントジョージの難コースに立ち向かうことは難しい。
それが現実となったのか? ブルンメンフェルトが引っ張る先頭パックに入れず、さらにはレースが進むに連れ徐々に遅れをとってしまう。

結果、ブルンメンフェルトはバイク終了時にデンマークの新生、マグナス・ディトレフ(写真下)に数秒遅れをとるものの、素早いトランジションで総合トップでランコースへ。
この時点で彼が勝利を大きく手繰り寄せたと誰もが思ったはずだ。

しかしその後、バイクの先頭パックで常に好位につけていたベン・カヌート(アメリカ/写真下)が、ブルンメンフェルトが最も警戒していたイデンに変わり、ロケットスタートで追いつき一気に抜き去ってトップに立つ。
ここからレースの本当のクライマックスが始まることになった。

カヌートとブルンメンフェルト。ふたりはまるでオリンピックディスタンスのランパートのようなスピードで、激しいつばぜり合いを繰り広げていく。

ランで凄まじい破壊力をもつブルンメンフェルトに勝つには序盤で決定的な差をつけ、本人を諦めさすしかないとカヌートは考えたのだろう。
潰れてもいいから「行けるところまで行く」という決意が伝わるほど。ラン21km全域でスパートするといった勢いで、一時は「彼を置き去りにするか?」といったシーンもあった。

優勝候補のひとりだったグスタフ・イデンは10月8日のハワイの疲労が影響したのか。バイクの中盤から精細を欠き、ランの2周目(中間地点)に入る前にレースを終了していた

しかし昨年8月、オリンピックのラン10kmで並み居る強豪を重量感あふれるスピードでなぎ倒して勝ったブルンメンフェルトは冷静だった。

カヌートがペースを上げてもマークを緩めず、さらにはその最中でも数回後ろを振り返り “最大のライバル” の姿が見えないことを確認。そして残り5km地点で満を持してのスパート。
同じセントジョージの地で、5月に続くふたつめの世界タイトルを獲得することに成功した。

3位に入ったマグナス・ディトレフ。そのポテンシャルは高く評価され続けていたが、ようやく『世界選手権』で結果を残すことに。しかし実は今回、バイクスタート時にヘルメットをかぶり忘れてトランジションエリアを出ようとし、一度バイクラックに戻るという大きなミスを犯していた。それがなければさらに順位を上げられていたか

ブルンメンフェルトのランラップは1時間11分39秒で、これは10kmを34分で走るペース。起伏の多いバイク90kmを終えたあとだと考えると、やはり激しいスピード合戦だったことがわかる。
さらには、優勝タイムもセントジョージの難コースで3時間37分14秒というレベルの高さだった。

「バイクの序盤20分で(ライバルたちに)プレッシャーをかけ、有利にレースを運ぶことがレースプランでした。(ランでの)ベンとのトップ争いは本当に激しかった。だから覚悟を決めてスパートし、勝利をつかみに行きました」とブルンメンフェルト。

一方で、「アイアンマン・ハワイのあとの3週間、あの世界選手権のリベンジはほかのレースでは果たせないと毎日考えていました。だから再びあの地に戻り、目的を完成させなければなりませんね」と近い将来、またハワイに出場すること示唆している。

これでブルンメンフェルトは2021年8月のオリンピック(東京)、今年5月のアイアンマン世界選手権(アメリカ・ユタ州セントジョージ)に続き70.3世界選手権のタイトルを獲得。
こんな表現は乱暴なくくりになってしまうのだろうが、51.5km、ミドルディスタンス、アイアンマンそれぞれの最高峰レースでの勝利、“トリプルクラウン” をドイツのヤーン・フロデノに続いて完成。さらには、わずか1年と2カ月という短期間での達成は快挙といえる。

ランに入ってから終始トップを走っていたベン・カヌート(左/2位)。アイアンマン・ハワイのチェルシー・ソダーロ、そして前日のテイラー・ニブに続く『アメリカンの世界選手権制覇』には届かなかったが、シーズン中に大病を患ったあとの復帰戦の結果に本人も感慨深いものがあったようだ

来シーズンからはパリ五輪を目指すことを公言しているが、8月の コリンズ・カップ(ミドル)出場にも強い意欲を見せているブルンメンフェルト。
さらなる未踏の領域へ。彼のビッグチャレンジは続く。

【プロ男子レースの結果】
1 Kristian Blummenfelt (NOR) 3:37:12
2 Ben Kanute (USA)  3:38:01
3 Magnus Ditlev (DEN) 3:3952
4 Mika Noodt (GER)  3:40:51
5 Frederic Funk (GER) 3:42:34
6 Miki Taagholt (DEN) 3:42:45
7 Jackson Laundry (CAN) 3:43:52
8 Thor Bendix Madsen (DEN) 3:44:42
9 Aaron Royle (AUS)  3:45:03
10 Clement Mignon (FRA) 3:45:45

《プロ女子レースのリポート》 ※リンク

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