2022年のアイアンマン70.3世界選手権の女子プロレースが、アメリカ・ユタ州セントジョージで10月28日に開催された。
『Crushing(完全な)Race』。この日、レース解説者がそう評するほどの圧勝劇を見せたのが、アメリカのテイラー・ニブ(写真下)だった。
今シーズンの序盤、4月のアイアンマン70.3カリフォルニア大会で優勝。5月のワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズ横浜大会でもスピードあるパフォーマンス(6位)見せていたニブ。
しかし実はその後、コンディションを大きく落としシーズン予定を修正。8月にノミネートされていた コリンズ・カップ もキャンセルせざるを得ない状況に陥っていた。
「ここまでの環境下で多くのことを学びました」
レース前にそうコメントしていたように、昨年からはらミドルディスタンスにも挑戦し(コリンズカップ2021出場/18人中1位など)、今年はミドル出場のためにトライアスロンバイク(TREK・Speed Concept)も導入。
出場ブランクが明けた9月の PTO・USオープン では2位に入り、再びトップシーンに返り咲いている。
ショート、そしてミドルに向けたレース準備&コンディショニングや、トライアスロンバイクでのパワーメーター出力管理。さらには思い通りにいかなったシーズン途中での経験なども含め、自ずと自身の引き出しが増えていくことも実感してのコメントだったのだろう。
水温17℃というコンディションの中、レースをリードしたのはやはりルーシー・チャールズ-バークレー(イギリス/写真左)だった
そんな確信がレースで存分に発揮される。
スイムはレースウィークに入ってから低温気候が続き、距離が短縮されるのではないかという情報もあったコンディション。水温17℃の中で当日レースがスタートした。
厳しいレース条件に、自ずと出場者たちのコンディション維持も難しくなる。
バイクパートではほとんどの選手が寒さ対策のためグローブやアームウォーマーを使用。各自、対策を施してレースを進める中、ニブはバイクジャケットまでも導入していた(写真下)。
それも効奏したのか、スイム終了時には、3週間前に行われたアイアンマン世界選手権(ハワイ)でダントツのスイムラップをマークしていたルーシー・チャールズ-バークレーとほぼ同位(トップ集団)につけバイクスタート。
その後すぐに独走劇を演じることとなる。
出場トップ選手の中でも高い安定性を感じさせるポジション。そして大きな出力を維持し続けるペダリングなど、バランスのとれたニブのバイクフォームは、今回の “完全レース” を成立させるための大きなピースになっていた。
バイクパートはフローラ・ダフィ(バミューダ)、ポーラ・フィンドリー(カナダ)との2位集団でフィニッシュしたチャールズ-バークレー(写真上)。ランの追い上げが期待されたが3週間前のハワイでの疲労、そして(ハワイとユタとの)寒暖差が影響したのか? 中盤から徐々に遅れをとり4位という結果に
結果、ニブはバイク90kmで2時間14分41秒という他を寄せ付けないラップをマークし、後続に約7分の差をつけて難コースが待ち受けるランパートへと進んでいく。
さらに、ニブは身長169cmのダイナミックなフォームから繰り出す推進力で、ラン序盤でもリードを拡大。もう誰にも付け入るスキを与えないレースプランを完成させつつあった。
ポーラ・フィンドリー(カナダ/前)、フローラ・ダフィ(バミューダ/中央)、チャールズ-バークレー(後)のランパートに入っての激しい2位争い。このあとダフィの走りは精細を欠き5位へと後退してしまう
しかし急な上りやゴルフコース内を走るクロスカントリー区間など、「すべての要素が詰め込められたコース」(解説者)を2周回するランでは、さすがに後半のペース維持は難しかったよう。
「10kmを過ぎてからは本当に苦しかった」と少しピッチを落とすものの大勢にはまったく影響なく、2位に5分半の差をつけてトータルでの完成度を見せつけて圧勝した。
バイクの途中では後続との大きなタイム差を確認し、「セーフティ・ファーストを心がけていました」(ニブ)と、本人が自認する以上にレース経験値も上げたようだった。
プロ女子レースのポディウム。優勝したニブ、2位にポーラ・フィンドリー(カナダ/左)、3位にはランで猛追したエマ・パレント-ブラウン(イギリス/右)が入った
「(この厳しいコンディションの中)スイム、バイク、ランを上手くこなせたことに感謝しています。セントジョージの皆さんの応援が私をこの場(1位)に連れてきてくれました。本当にありがとうございます」
心技体ーー。24歳で70.3世界チャンピオンの座を獲得したニブは今シーズン、さまざまな経験を経て大きな充実期を迎えている。
レース会場は5月に行われたアイアンマン世界選手権と同じ。フィニッシュ地点後方に見えるアイアンマン・モニュメントが街のシンボルとなっている
さて、気になるのは今後の彼女ベクトルがどこに向かっていくのかということだ。オリンピックを目指すのか、ロングへと舵を切っていくのか。
優勝インタビューではそのことには触れられなかったが、いずれにせよ今回「完全な勝利」を納めた彼女の、来シーズンの動向に注目が集まるのは間違いない。
【プロ女子レース結果】
1位 Taylor Knibb (USA) 4:03:20
2位 Paula Findlay (CAN) 4:08:57
3位 Emma Pallant-Browne (GBR) 4:10:45
4位 Lucy Charles-Barclay (GBR) 4:11:24
5位 Flora Duffy (BER) 4:13:33
6位 Holly Lawrence (GBR) 4:14:15
7位 Jackie Hering (USA) 4:15:05
8位 Nikki Bartlett (GBR) 4:15:38
9位 Tamara Jewett (CAN) 4:15:57
10位 Anne Reischmann (GER) 4:16:50
《プロ男子レースのリポート》 ※リンク