時に勝ち、時に学びます。
完璧な準備を行っても成功が保証されているわけではありません。それが面白いのです。
(一昨日行われた)女子のレース・ショーを楽しんでもらえたことを望みます。この私たちのスポーツに接する時間は素晴らしいーー。
昨年のアイアンマン世界選手権ハワイ(10月6日開催)のレース後に、ダニエラ・リフ(スイス)が公に発信したコメントだ。5月のセントジョージ大会でアイアンマン世界選手権5勝目を挙げ、70.3大会とあわせてワールドチャンピオンシップのタイトルを10度獲得しているリフ。
このときハワイのレース直前も、マウイ島での調整トレーニングが順調に進んでいたようで、本番レースの優勝にもっとも近い選手と目されていた。(※写真をタップするとフルサイズで見られます)
昨年のアイアンマン世界選手権ハワイのスタート前。絶えずメディアの注目を集める存在となるのは今年も同じのようだ
しかし、結果は先にある彼女のコメントの後者のほう。6度目のアイアンマン・チャンピオンに輝くことはなかった(結果は8位)。
そのキャリア、実績から出場するレースで常に注目される存在となる彼女。
今回、10月14日に行われるアイアンマン世界選手権ハワイでも、多くのタレントがラインアップする中、優勝候補のひとりとしてフォーカスされることになる。
結果はもちろんではあるが、目標に向かっての過程を最重要視している彼女。それでも自身のシーズンスケジュールや、レース会場での一挙手一投足に話題が集まることに対し、施さなければならないマネージメントの負担は相当なものだろう。
昨年5月のアイアンマン世界選手権(セントジョージ/写真上)の前。ダニエラ・リフはシーズン序盤の不調によって、メディアからそのパフォーマンスに疑問を投げかけられたこともあり、中には辛辣なコメントを発する識者もいた。
それを跳ね返して示してみせた完勝劇に、これまでに見せたことがないのではないかというほどの感情を顕にしている。
その根源をたどっていくと、多くのスポーツ選手がそうであったように、コロナ禍のスポーツイベント中止期間による価値観の変化が大きく影響していたようだ。
これまで数々のタイトルを獲得し、第一線を走り続けていた中でのパンデミックによる世界の停滞。そんな中、彼女は「スポーツがなくなってしまうと、自分の人生に多くのものがないことが痛いほど明らかになった」というプレッシャーを感じたことを後日、トライアスロンメディアに語っている。
今年6月にドイツで行われたチャレンジ・ロートのレース前記者会見。リフ(左)、アンネ・ハウク(中央)、ローラ・フィリップのドイツ勢はいずれも今年のハワイの優勝候補に挙げられている
その後、彼女はトレーニング環境を変え、さらには大学院に籍を置き、ビジネス心理学の学位取得などに取り組んでいる。
それは、この先も続く自身のトライアスロン・キャリアのためでもあったのだろう。
実際、彼女はパンデミックの中でもレースシーズンがスタートしつつあった 2021年3月のアイアンマン70.3ドバイ で優勝したとき、トライアスロンでの自身の居場所を再確認できた喜びを語っている。
チャレンジ・ロートのフィニッシュライン・パーティーにて。男子優勝のマグナス・ディトレフ(右)とレースを振り返る
今シーズン、彼女がさらなる注目を集めるきっかけとなったのは6月25日にドイツで実施されたチャレンジ・ロート。
そこでリフは8時間08分21秒をマークし、フルディスタンスの世界記録を10分も更新する。
その1カ月半前に出場した PTOヨーロピアン・オープン(スペイン・イビザ島)では胃の調子が悪く、レース途中でリタイアすることとなったが、地元開催となる6月11日のアイアンマン70.3スイスで優勝。コンディションを立て直しての快挙となった。
その間も、彼女はトレーニングだけでなく、使用エキップメントなどの変更やブラッシュアップに意欲的に取り組み、進化しようという姿勢を止めようとしない。
そこには、信頼するチームと共に未踏の地を乗り越え、さらなる高みへ進むという彼女のフィロソフィーがあるのではないか。
チャレンジ・ロートでのレース前。地元メディアを中心とした取材に対応するリフ
ロートのレースあとは、ハワイのアイアンマンに向けた準備へとシフト。
これまで以上に高地トレーニングを取り入れた、ハードワークゆえの体調変化の波にも直面したが、それらすべてを受け止めてシーズンの5戦目、ハイライトとなる舞台へと向かう。
〜ダニエラ・リフの決戦バイク〜
【フェルト/ IA 2.0】
昨年10月のハワイで正式に発表。当時「ようやく」といった形容詞がついたのには、2021年からすでにリフなどが使用しており、その全容が待ち望まれていたから。国内では今夏に実車発表が行われている。
今年6月のチャレンジ・ロートでは、DHアタッチメントをなど細部にわたりパーツを進化させていた
以下に過去の使用モデル遍歴を写真で見てみよう。
【2021年のリフ・使用モデル】
【2022年のリフ・使用モデル】
外見はほぼ変わらないものの、もちろん細部でブラッシュアップされてきている。
なんといっても特徴的なのはトップチューブ上部に一体化デザインされたストレージとハイドレーション・システム(2021年モデル参照)。上面に200mlの容量をもつ補給食&小物入れ、その下に900mlのタンクが設置可能で、突出したロングライド対応性を誇る。
一方で、2022シーズンの彼女はそのフレーム一体型のストレージ&タンクを外して使用するケースが多く見られ、出場レースに合ったスタイルを追求していたように見てとれた。(写真下は2022年ハワイ)
2023シーズンは、3度による風洞実験により3Dプリント生成された SWISS SIDE(スイスサイド)のDHアタッチメント(写真下)や、KOGEL のディレイラー&ビッグプーリーなど細部までパーツを厳選。
バイク走行時の抵抗値の徹底的な削減を目指し、ロート大会での4時間22分56秒(180.2km)というタイムを叩き出している。
また、リフはウエアにおいてもタイム向上を目的に、イタリアの高性能サイクリングアパレルブランド『Q36.5』のレーススーツを使用。さらにはシューズメーカを HOKA にスイッチし、“ROCKET X 2” を使用して2時間51分55秒のランタイムを(ロートで)マークしている。
常に進化することを探求し続ける彼女の、6度目のハワイ制覇に向かうパフォーマンスに注目しよう。