女子優勝の林愛望(中央)、2位の高橋侑子(左)、3位の平泉真心。若手とベテランの共演は新時代の幕開けを確信させるレースでもあった
51.5kmでナショナルチャンピオンを決める「日本トライアスロン選手権」が、10月26日(日)に東京・台場で開催。
男女の若き勝者たちが刻んだ一歩が、世界へと続く道のりを新たに切り開いていくーー。
そんな印象を大きく与えた主役たちのコメントを、レース展開の振り返りも含めてリポートしていく。

<女子上位リザルト>
🥇1位:林 愛望 (日本福祉大学・まるいち) 1:55:54
🥈2位:高橋 侑子 (相互物産) 1:56:11
🥉3位:平泉 真心 (流通経済大学) 1:56:55
【女子優勝】林 愛望
今回で5回目の日本選手権出場となった林。
憧れであり、自身のステージを上げてライバルにもなった高橋侑子選手との一騎打ちを制して、2度目のナショナルチャンピオン奪取に感慨はひとしおだった。

「ずっと目標にしている高橋選手。これまで一緒に出場したレースの中で初めて彼女に勝てたので、率直に嬉しいです。
昨年の日本選手権ではバイクで落車してしまっていて、今年は(雨で)路面も濡れていたので、そこでは安全にレースを進めようと心がけていました。
ランに入って高橋選手と2人だけの勝負となり、最初の5kmまでは(彼女に)引っ張ってもらうかたちになったのですが、残り2周になって(全2.5km × 4周)少しペースを上げて前に出ようとしたんです。
でも引き離すことができずに「やはり強いなあ」と。そしてラスト1周に入って『よし、行くぞ!』とさらに強い気持ちを持って勝負に持ち込んだのが良かったと思います」

ランをスタートしてすぐに高橋(左)と一騎打ちとなる激しい争いを展開。林にとって高橋が「憧れ」から「本当のライバル」となったレースでもあった
「(高橋選手は)ずっと日本のトップを引っ張ってきている選手であり、私にとっても信頼できる先輩。
これまで自分がレース前に不安になっていたときも、『大丈夫だよ』とマイペースへと落ち着かせてくれたりもしていました。
一方で、レースでは本当にもうずっと勝たせてもらえなかった。
何度も何度も負け続けていて、今回も本当にきついレースだったのですがついに勝つことができました。
この勢いを、今後世界の舞台で戦っていくときにも活かしていきたいと思います」
【2位】高橋 侑子
一昨年までで引退を予定していたものの、現役続行を決断して挑んだ昨シーズンを経て新たな自信をもつことができたという高橋にとって、日本選手権は17回目の出場。初出場は高校1年生の時(2007年)でその翌年に初優勝。今年は3連覇をかけたレースとなった。
今年9月の大会で落車し、大きなケガを負ったが再びレースに出場できるまでに回復。ここまで完璧な準備ではなかったものの順調にコンディショニングはできたとのこと。
林(愛望)選手や後輩たちの成長も感じており、皆さんにワクワクしてもらえるよう積極的に戦うと決意表明していた。

「いやー、(2位という結果は)悔しいですね。でも林選手や、ほかの若手たちが頑張っているのを間近で見られたことはうれしくもあり、一方でもう少し(自分がレースを)引っ張れたら良かったという思いもあり、今すごく複雑な気持ちです。
スイムをスタートしてから思っていた以上に身体が動かなくて、ちょっと自分でもびっくりしました。何が理由か分からないのですけど、準備の問題だったのか、気持ちの問題だったのか。
でもそこから立て直して、できることをやっていって今日出せる力は出し切れました。
本当に負けられないなという思いはずっとあったのですが、今回はもうこれが精いっぱい。今日は林選手が強かったということです。
2年前の日本選手権などと比べると、本当にどんどん若手の選手たちが強くなってきています。それまでは全然(後ろに)誰も見えないような状況でレースをしていたので」

「今シーズン全体を振り返ってみると、去年できなかったことができるようになってきたり、世界シリーズでも少しず良いところが見えてきた中ではあったんですけど、9月に落車でケガをしてしまいました。
長い競技人生の中、初めての経験ですごく難しい期間でもありましたが、たくさんの方にサポートしていただき乗り越え、また新たなところ(目標)が見えていて、それが自分の力になったと思います」
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<男子上位リザルト>
🥇1位:安松 青葉 (三井住友海上) 1:44:17
🥈2位:北條 巧 (NTT東日本・NTT西日本) 1:44:38
🥉3位:内田 弦大 (滋賀県スポーツ協会) 1:45:01

【男子優勝】安松 青葉
ラン中盤の5km過ぎから北條巧選手と激しいマッチレースを展開した安松。
北條は大学時代(日本体育大学)の先輩(1学年上)で、憧れでありライバルでもある存在。ともに切磋琢磨してきた仲だという。

「やっぱりこの日本選手権の表彰台で一番上に立てるということは、非常に嬉しく思います。
北條選手は学生時代から日の丸を背負い、世界で戦っていて(自分にとって)いつも背中を追う存在。
これまで何度か競り合うレースもありましたが勝てない展開が続いていたので、今回ランで一騎打ちになったときには『絶対に勝ちたい』という気持ちが強かった。
もうずっとそれしか考えていなかったです」

ランの4周目(7.5km地点/最終周)に入り北条(写真中央)のゆさぶりを振り切って勝利をたぐり寄せた
「実は日本選手権は久しぶりの出場で5年ぶりになります。
昨年(出場する)チャンスはあったんですけれども、海外のレースで骨折してしまい出走できませんでした。大会会場で、選手じゃない立場でスタートのシーンを見ることになって、すごく悔しい思いをしました。
今回はしっかり出場でき、かつ優勝できて格別です。
今年から三井住友海上に入社して、ほかにも多くのスポンサーがついてくださいました。
そして今日は会社から大応援団も来てくれていて、その前で勝てたことは非常に価値があるものだと思います。
今後の最大目標はロサンゼルス・オリンピック出場なので、ここから目標に向けて状態を上げていく。維持ではなく上げていけるように頑張ってきたいと思います」
【2位】北條 巧
今年の前半はケガの影響でWTCS横浜大会に出場できず、悔しい思いをしたという北條。
後半戦はアジア選手権やアジアカップで優勝。WTCSでも手応えのあるレースができ、状態も上がってきているという。
日本選手権は学生時代から特別な大会として目標にしてきたとのことで、昨年久しぶりに出場して優勝。今回、連覇を目指した。

直属の後輩といえる安松(右)と終盤まで激しい争いを繰り広げレースを大いに盛り上げたが、タイトルは明け渡すこととなった
「安松選手は大学時代、ランニングの練習で一回も勝ったことがなかったので、ランのラスト1周の勝負まで行ってしまうと、自分にはちょっと(勝つのが)難しいかなっていうのは、レース前からシミュレーションしていました。
だから(ランの終盤勝負に持ち込まれる前に)ちょくちょく仕掛けてはいたんですけど上手く決まらず、今日は負けてしまったという感じですね。
レース全体を振り返ると、やはりスイムでかなり遅れてしまったのが良くなかった。
(スイムの)パフォーマンスをケガの影響からもう少しちゃんと戻さないと、日本選手権や世界シリーズでも戦えないなとは今回感じました」

2位の北條(左)に続き3位表彰台を獲得した内田弦大(右)。31回目となった日本選手権は、男女とも新たな時代の幕開けを予感させる結果となった
「(ランでマッチレースとなってから)瞬間的なアタックを何度かけてしまったんですけど、今考えると彼の得意な分野だからこそ自分が有利に持ち込めるパターンに。少し早い段階でジワジワとロングスパートを仕掛けたほうが良かったのかなと思っています。
そういった対応力は来年の課題として、しっかり学びにつなげればと。
やっぱり日本選手権は勝たなきゃ意味がないと自分は思っているので、負けたことは純粋に悔しい。
(最初に述べた)スイムレベルの向上など、かなり課題が残ってしまいましたが、来シーズンからオリンピックに向けてのランキング争いが始まるので、強化すべきところはしっかりと強化し、世界シリーズに備えたいと思います」
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