笑顔のふたり。 〜 ルーシー・チャールズ=バークレーが 2度目の70.3世界女王に輝く 〜 【アイアンマン70.3世界選手権マルベーリャ・女子レースリポート】

IM 世界選手権

10月のハワイの雪辱を果たした、ポディウム中央に立つルーシー・チャールズ=バークレーと2位のテイラー・ニブ(左)。そして3位に入った大健闘のタンヤ・ノイベルト(右)

11月8日(日本時間)にアイアンマン70.3世界選手権マルベーリャのプロ女子レースが開催。
ここスペイン・アンダルシアの地では、10月のハワイ島コナで、アイアンマン世界チャンピオンの座をあと少しまでたぐり寄せながらも、失意のリタイヤを喫していたふたりの笑顔がはじけ飛んだ。

「コナでのDNFからわずか4週間後にこの舞台に立てたこと自体が、自分にとって大きな救いでした。完璧なリベンジではないけれど、この結果を誇りに思います」とは2位を獲得したテイラー・ニブ(アメリカ)。
今週のレースウィークに入る直前まで(出場可否の)体調を見極めていたという彼女にとって、このマルベーリャでのパフォーマンスは賞賛に値する。

90kmの距離で獲得標高1,785mというタフなバイクコースで主導権を握ったニブ © Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images for IRONMAN

先月ハワイでの大一番と同様、スイムスタートから飛び出したルーシー・チャールズ=バークレー(イギリス)をバイクで追い、序盤でトップに躍り出ると、70.3世界選手権4連覇に向かって出力を上げていくニブ。
ただ今レースに向けては(疲労のため)ほとんど練習が積めていなかったといい、「バイクは最初の40分間で興奮しすぎてしまい、『コーチ、ごめんなさい』という感じでした(笑)。そのあとは完全にバテてしまい、残り2時間はただただ耐えるだけ。ランでは『とにかく突っ込んで、どこまで持つか』というレースでしたね」
と、ランパートをトップでスタートするも 8km地点でチャールズ=バークレーに首位を明け渡すことに。
しかし、途中でふたりが併走する光景はまるで、1カ月前のアイアンマン世界選手権コナの再現のようだった。

山岳を含むバイクコースからランは市街地に戻り、リゾート地ならではの風光明媚なルートを駆け抜ける © Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images for IRONMAN

9回目のアイアンマン70.3出場で、これまで6勝(世界選手権3勝を含む)を挙げていながらも「ミスはつきもの」だというニブ。
ただ、「来季に向けて改善点も多く見つかり、それがまた次の成長につながると感じています」と充実したシーズンの締めくくりとなったようだ。

もうひとつの世界選手権ではじけたふたりの笑顔

一方で、フィニッシュラインで歓喜の雄叫びを上げたのがチャールズ=バークレーだ。
10月のハワイDNFから(イギリスに)戻ってきたあと、「家族のなかで大切な人を亡くした」という悲しみにも直面。非常に難しいコンディションが続く中、『健康でスタートラインに立てるだけで幸せなんだ。だからすべてを出し切ろう』とレースに出場できる喜びを噛みしめて臨んでいたという。

バイク途中でニブに先頭を明け渡すも、しっかりと後方でマークに徹するなど冷静なレース運びを披露。
「スイムの入りからすごく調子が良くて、思っていた以上にリードを築けました。しかし、コナでも序盤は完璧だったのに最後は崩れてしまっていたので、油断しないよう自分のペースをキープ。バイクでテイラー(ニブ)について行くのは簡単じゃないけども、とてもいい展開だったと思います。
そしてランに入ってからも落ち着いて走ることを心がけ、最後は勝利を確信できるくらいまで身体が動いてくれました。
応援してくれた観客の声援が本当に力になった。この勝利を、支えてくれた家族、チーム、スポンサー、そして天国の大切な人に捧げます」

3位に入ったドイツのタンヤ・ノイベルト(右)はショートディスタンスを主戦場にしている選手。来シーズンも51.5kmを中心に活動する © Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images for IRONMAN

4週間前、一番欲しいタイトルが懸かったレースでリタイヤという結果に終わり、その後の試練、コンディショニングの難しさとも向き合ってきたチャールズ=バークレーとニブ。
ふたりの満面の笑顔がアンダルシアの青空に映え、皆が祝福するエンディングを迎えたレースだった。

新たなタレントたちの胎動

今回の70.3世界選手権でチャールズ=バークレー、そしてニブに続いて注目を集めたのが “アイアンマン・ニューフェイス”。これまで主にショートディスタンスを中心に活躍してきた選手たちが見せた可能性だった。

これは、ハーフアイアンマンの距離ならではのチャレンジ・ステージとも表せる。かつてはテイラー・ニブが 70.3オーシャンサイド大会 などでステップを踏んできたように、未来のアイアンマン・チャンピオン創出の土壌も確実に育まれているといえるだろう。

その代表格が今回4位に入った、オリンピアンでトリプル・メダリスト、そして スーパートライ・シリーズ などでも活躍するジョージア・テイラー=ブラウン(イギリス)だ。
「初めての(アイアンマン)世界選手権の舞台に立てて本当に幸せです。スタート前はすごく緊張しましたが、まわりのエイジグルーパーたちの明るい雰囲気に助けられました。
自分のゼッケンが11番だったので、せめて『番号より上でフィニッシュしたい』という気持ちで(笑)少しずつ順位を上げて行こうと。おかげで最後までプッシュできたと思います。
4位という結果には非常に驚いていますが、とても満足しています」(テイラー=ブラウン)

今シーズンから新たなフィールド(ミドル)にも積極的に挑戦し始めているジョージア・テイラー=ブラウン(左端)と、70.3レース初チャレンジとなったタンヤ・ノイベルト(右から2人目)。この先また、アイアンマン・シーンに新たなタレントが誕生する縮図も垣間見れた © Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images for IRONMAN

一方、こちらも WTCS やヨーロッパ・トライアスロンカップなど、ショートで活躍しているタンヤ・ノイベルト(ドイツ)は、「この大会で表彰台(3位)に立てたことが信じられません。スイムで良い位置取りができ、バイクでは上り区間が得意だったのでリズムを保てました。ダウンヒルは少し苦手でしたが、それでも諦めずに走り切れたのは大きな成果です」と新たな可能性を見いだしたよう。
「観客の声援が本当に温かく、ショートの大会では味わえない特別な雰囲気でした。このあとは、また51.5kmなどを中心に活動しますが、70.3シリーズも機会があれば出場したいと思います。これからも経験を積んで、またこの舞台に戻ってきたいです」(ノイベルト)

今後、2026年アイアンマン・シーンの顔ぶれにますます注目が集まることとなるだろう。

【プロ女子上位リザルト】
1位 Lucy Charles-Barclay (🇬🇧GBR) 4:14:54
2位 Taylor Knibb (🇺🇸USA)  4:17:55
3位 Tanja Neubert  (🇩🇪DEU) 4:22:07
4位 Georgia Taylor-Brown (🇬🇧GBR) 4:23:47 
5位 Marjolaine Pierré  (🇫🇷FRA) 4:23:55

▶︎▶︎ 男女有力プロ選手紹介のコラム ※リンク

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