トライアスリートのためのツール・ド・フランス特集2020 ブレーキシステムのトレンドを追う

TDF for Triathlete

ディスク全盛といえる今年のツール・ド・フランス(TDF)。トライスロン界ではブレーキのディスク化に拍車がかかっているが、TDFで使用されるバイクも同様で、昨年と比べ今年ディスクブレーキを取り入れたチームはさらに増えている。
前回のツール・ド・フランスでは出場全22チーム中、ライダーの要望にあわせ特別に用意したケース(一部使用)も含めれば、ブレーキにディスクを採用していたのは14チームあった。一方で今年は一部チームが入れ替わったももの、同じく全22チーム中、実に18チームを数えるまでになってる(個人タイムトライアルは第20ステージに行われるためTTバイクを除く)。昨年をディスクブレーキ移行への「過渡期」と位置づけるとするならば、今年のTDFはまさに『全盛期』といえるだろう。ここで、ディスクブレーキのメリット、デメリットについて、今企画「ツール・ド・フランス特集②」でご登場いただいたチーム・サンウェブのメカニック、ピム・ヘームスケルクさんの見立てを引用させてもらおう。サンウェブはディスクブレーキと従来のリムブレーキとを使い分ける数少ないチームだ。

「我々のチームはヒルクライム用バイクを用意しているが、これはより軽く仕上げることを優先させる方針なのでリムブレーキとなっている(ディスクブレーキはローターや専用のパーツが付随するため、リムブレーキと比べて全体重量が増える)。一方、平坦ステージをメインで考えているエアロバイクは、より制動能力の長けたディスクをチョイスしている。もちろんTTバイクも同じ理由だね」とのこと。
では実際の取り扱いについてはどうだろうか。選手ももともとは皆、リムブレーキを使っていたわけで、その特性の違いから選手個々の特別な(セッティングなどの)リクエストはあるのか? と聞いてみたところ、
「それは全くない。制動力の高さに加え、レースコンディションの変化への順応性や取り扱いやすさもディスクの長所といえるからね。せいぜいリーチ(ブレーキストローク)幅の微調整くらい。これは選手の好みに合わせるのだけど、リムブレーキでもあるリクエストだから」
性能が優れているのは分かっていても、ディスクブレーキを使ったことがないトライアスリートの中には、操作性の違いなどで敷居が高く感じ、手を出しにくい人もいるかもしれないが、その心配はなさそうだ。

チームのチョイスから見るディスク特性

さらにメカニックの立場からの意見を聞いてみた。同じくシマノ製のディスクブレーキシステムを導入しているアスタナ・プロチーム(バイクはウィリエール)のメカニックは昨年、「ディスクブレーキの取り扱い(メンテナンスの手間など)自体は我々には何ら問題ない。ただひとつ難点があるとすれば、万が一、レース中のパンクでホイール交換の必要性が生まれたときだね。(ホイールについている)ディスクローターごと交換するわけだから、オイルの調整など取り扱いに慎重にならざるを得ず、クイックなホイール交換がどうしても難しくなる」と指摘。
確かにスペアバイクを積んだチームカーが一緒にコースを走るツール・ド・フランスの場合、パンク時には自転車ごと交換すれば良いが、それが無理なシチュエーションもレースではあり得る。それゆえ、昨年のアスタナはロードバイクにリムブレーキ、TTバイクにディスクと使い分けていたのだが、今年はロードモデルすべてがディスク化している。

同じような悩みを抱えていたのがEFエデュケーションファースト(バイクはキャノンデール)だった。昨年は、ロードモデルでは各々の好みによって4人がディスク、4人がリムブレーキを使っていた。
「だから(同じモデルで2種類のブレーキを使い分けるので)メカニックへの負担はちょっと大変だね。でも制動力から操作性までトータルの性能で優れているのは明かのなで来シーズンはすべてディスクになるよ」と、笑いながらメカニックは説明してくれたが、そのことばどおり、今年はすべてのバイクがディスク化されている。
これらの仕様変更はレースレベルの年々の向上から必然ともとれるだろう。
一方で、「あえて」リムブレーキを使用し続けているチームもある。代表的なのは直近で5年連続ツール個人総合優勝者を輩出しているイネオス・グレナディアーズ(バイクはピナレロ)と、今年、目を見張るタレント勢を擁し優勝候補の筆頭ともいえるユンボ・ヴィスマ(バイクはビアンキ)だ。

もちろんテクノロジーの最先端を追求し続けている両チームだけに、ディスクブレーキの優位性は完璧に把握しているが、そのディスクブレーキのメリット&デメリット、リムブレーキのメリット&デメリットを鑑みた上で「リムブレーキが最善」と判断してのチョイスといえる。その要因のひとつが、レース時のトラブルにおける対応幅の広さ、つまりはリスク低減の一環というのは容易に想像できる。それにしてもこの注目を集める2チームが、ディスク全盛となっているロード界で、ベーシックともいえるブレーキ選定であることは興味深い。
以上を参考に、あなたに適したブレーキシステムのチョイスを考えて見てはどうだろうか。

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