アイアンマン・ワールドチャンピオンシップ4連覇(2015〜2018年)、アイアンマン70.3ワールドチャンピオンシップ5度優勝の絶対王者。ダニエラ・リフ(スイス)を紹介するとき、多分に漏れずその実績が取り上げられるが、改めて彼女が刻んできた主要なリザルトを年ごとに見てみると、圧倒されるものがある。
2012年ロンドン・オリンピックに出場後、フルディスタンスのアイアンマン、そしてハーフディスタンスを中心に、
・2014年:6戦5勝
・2015年:8戦8勝
・2016年:7戦5勝
・2017年:8戦6勝
・2018年:5戦5勝(8:26:18のハワイのレースレコードを含む)
・2019年:7戦6勝
・2021年:7戦5勝
という成績からも分かるように、2014〜2021年の通算は48戦40勝。まさに現役にして、史上最高峰の女性トライアスリートのひとりといえる。
しかしそんな彼女も2021シーズンは、8月25日の コリンズ・カップ(18人中17位)、9月18日の アイアンマン70.3世界選手権(11位)の期待されたレースで思うようなフォパーマンスを発揮できなかった。続く今年3月の アイアンマン70.3ドバイ では2位を獲得するものの、翌月の 70.3オーシャンサイド では10位(その後、バイクの規制区間の速度オーバーで失格)と本人にとっても不本意であろうレースが散見されている。
特に2021シーズンは、原因が特定できないまま免疫系、呼吸器など身体の健康問題を抱えてしまい、思うようなトレーニングができない状態が続いたという。シーズン後半にその症状は顕著だったようで、イライラした毎日が続いたとも。
また今年の4月2日のオーシャンサイド大会の結果には、「ベストを尽くしましたが、エネルギータンクが空のように力が出なかった。失望してします」と振り返っている。
しかし、カリフォルニア(オーシャンサイド)のレース後は、しばしの休息を挟み、高地トレーニングで有名なアリゾナ州・フラッグスタッフなどに拠点を移し、セントジョージに向けて練習を積んでいる。
その仕上がり具合は順調なようで、充実したトレーニングに手応えを感じているという。
彼女が約1カ月前からフラッグスタッフ入りした理由は、セントジョージと同じアメリカ内陸地の乾燥した気候、そして寒暖の大きいコンディションに、なるべく早く身体を慣らしていくことにあった。
その効果は十分に体感できているようだ。セントジョージのレース10日前に行われたインタビューでは、「乾燥した空気だと呼吸しやすいと思うかもしれませんが、慣れていないと実際はそうではなく、最初は重く感じました。私が計ったときの最低湿度は6%だったと思います。こういった環境でレースをすることは、ほとんどないでしょう。たとえば(乾燥で)発汗していないからと給水を怠ると脱水症状に陥りやすい。3週間かけて、ようやくこの難しいコンディショにに順応してきました」と準備が整いつつあること表している。
〜特別なワールドチャンピオンシップ〜
さらにリフは今回、セントジョージで初めて行われるワールドチャンピオンシップの開催時期と、タフなコースにも難しさを感じているようだ。
ハワイが実施されるのは毎年10月。この世界一を決める過酷な消耗戦のあと、シーズンは終わりに向かうが、今回のレースは5月。これからレースが本格化するタイミングとなる。
さらには、激しいアップダウンが待ち受けるコースは、ハワイ4連覇の彼女をもってしても、「レース後のダメージは相当覚悟しなければならない。翌日はまともに歩くことができないのではないか? そんな恐怖さえ覚えます」と分析しているという。(同インタビューより)
これはリフだけに限らず、すべての出場者に突きつけられる課題かもしれない。
それだけに、シーズンを大局的に見つつ万全なコンディションでレースに臨めるよう、着実に準備を進めきたリフのパフォーマンスが、今回の世界選手権の行方を左右することは間違いない。
【ダニエラ・リフの決戦バイク/フェルト・IA 2.0】
そのパフォーマンスとあわせて、レースの注目を集めそうなのが彼女が駆るフェルトのニュートライアスロンバイク、IA 2.0 。今回のセントジョージで本格的な世界リリースとなるのではないか。
一番の特徴はその個性的なフレームデザインだろう。スペシャライズド/S-WORKS Shiv やキャニオン/スピードマックスに代表されるように、トップチューブがフラットで全体的にシャープなフォルムが主流となりつつあるトライスロンバイクの中にあって、それに逆行するような大幅に湾曲したトップチューブや、トライアングルフレームでは過去に例がないほどのボリューミーなフロント&リアまわりなど独創的なフォルムを見せる。
ちなみに、モデル名にある “IA” とは「Integrated(統合) Aero」の略とのこと。“2.0”というアップグレードを経て生み出されたエアロシェイプ・デザインといえる。
そして外見からもすぐに判別できる大型のフューエルシステム、あるいはストレージをトップチューブ前方に装備。容量を確保しながらもフレーム形状と一体化させたレイアウトも、先代コンセプトとなる “Integrated” を踏襲したものととれる。
さらに今年のリフのバイクで注目すべきは、SWISS SIDEのDHバーだ。
このTTアタッチメントの感触は良好で、下りの高速セクションや横風の中でもDHポジション走行の強い味方になるという。
スイスサイド社とは、F1の元エンジニアが創設したメーカー。最先端の風洞実験やコンピュターでの流体解析を駆使し、とことんエアロダイナミクスを追求したプロダクツの製作やテクノロジーの供給を行っており、トライアスリートだけでなく、トップ・プロサイクリングチームのTTバイクなどにも採用さている。
このスペシャルウェポンも、彼女の5度目となるアイアンマン・ワールドチャンピオン獲得へ向け、アシストしてくれることだろう。
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