10月に行われたアイアンマン世界選手権(ハワイ)のエキスポ会場でも注目を集めていた、クリスティアン・ブルンメンフェルト(ノルウェー)がレースで使用するウエアを現地で取材した。
TRIMTEX(トリムテックス)。
北欧ノルウェー発で、本場オリエンテーリングのアウトドアウェアをはじめクロスカントリースキー、バイク、トライアスロンなどのスポーツアパレルを幅広く展開しているウェアブランドだ。
もちろんトライアスロンでは、ノルウェー・ナショナルチームのウエアにも採用されている。
そして、いまや見慣れたデザインとなったクリスティアン・ブルンメンフェルトが使用する “アエロ・スピードスーツ” は、先端テクノロジーを搭載した彼専用のスペシャルモデル。
その特長はふたつ。快適性とエアロダイナミクスだ。
ウエアのベース生地となるのは、最新のストレッチ素材が織り込まれた超軽量ポリエステル。
これは昨年の東京オリンピックに向けて開発され、優れた熱放散性能で、酷暑下での体温調整に寄与する目的で採用されているという。(五輪レース時に使用されていたウエアと同じ素材)
アスリートの走りをワンランク上に引き上げることが可能なアイテムだとメーカー担当者(ハワイのエキスポにて)
もちろん素材の柔軟性は動きのストレス・フリーを狙ったものであり、加えて胴体(胸)部分は親水加工で水を流しやすくした上に、速乾性を兼ね備えた特別な素材を用いているという。
これによりスイム後、バイクやランに移ったときのウエアの水切り性能を高めている。
さらにブルンメンフェルトモデルの最大の特長は、スーツの肩まわりとヒザ下を覆うコンプレッション・ウエアに、空力性能を高める目的で取り付けられたドット型(写真下)の “タービュレーター” 機能(メーカー名称)だ。
ここでのタービュレーターとは『乱気翼』という意味。もとは航空業界で実用化されている空力技術で、モータースポーツの世界などでも顕著に取り入れられているテクノロジーだ。
たとえば自動車の走行時、まわりを流れる空気が車体を過ぎるとその後部で渦を作り出し、これが走行抵抗につながるという。さらには、走るスピードが上がれば上がるほど後方の渦も大きくなる(抵抗が増える)。
この対策として、レーシングカーでは走行時の渦ができる直前(走行時に受けた空気がボディから離れる寸前)の車体位置に突起物をつけ、意図的に乱流を生じさせるという手法がある。
この狙いは、車体の後方で渦が膨れ上がってしまう前に、あえて(前方で)小さな乱流を作ることでボディ表面を流れる空気の剥離を抑え、その結果、後方でできる渦を小さくしようというもの。
走行時の空気の乱流が大きくなる前に小さな乱流をつくれば、全体で発生する乱流が抑えられる(=空気抵抗が減少する)という現象だ。
この効果を狙い、DHポジション時に大きく風を受けるライダーの肩まわりから上腕にかけてと、自転車の下部で受けるヒザ下部分に注目し、ウエアの『タービュレーター』を装着させたというわけだ。
この種のテクノロジーは、過去にもいろいろ登場してきてはいる。
しかし近年は風洞実験などを通じ、ライダーの乗車ポジションやウエア、ヘルメットなどあらゆるバイクグッズを含めたエアロ化は驚くほどの進化をし続けており、そこから生み出されたこのアイテムは非常に興味深い。今後、画期的な機能になり得るかもしれない。
10月29日に行われたアイアンマン70.3世界選手権 では、このウエアでミドルディスタンス最高峰のタイトルを獲得したブルンメンフェルト。
11月6日には、はやくもバミューダで行われるワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズ(51.5km)に出場する予定で、すでに再来年のパリ五輪に向けてスタートを切っている。
使用するウエアはもちろんオリンピック・ディスタンス仕様となるのだろうが、いずれにせよ、レースの先端を探求するノルウェー・チーム、そして彼が繰り出すパフォーマンスからは目が離せない。
【TRIMTEX/エアロ・スピードスーツの説明動画】
>> TRIMTEX のホームページ ※リンク