2023年のアイアンマン70.3世界選手権が8月26日(土)、27日(日)にフィンランドのラハティで実施される。
ラハティは、EU(欧州連合)の最北&最東端の首都であるヘルシンキの北東約130kmに位置し、EUから2021ヨーロッパグリーン首都賞を受賞するなど、いわゆるカーボンニュートラルを標榜してきた随一の環境都市。そして、何よりも合計7回のFISノルディックスキーワールドカップを始め、幾多の国際イベントが開催されるスポーツの街として知られている。
フィニッシュ会場のバックにはスキーのジャンプ台を望むことができる
注目されるプロ女子、そしてプロ男子レースの模様は下記 Outside Watch サイトからアカウント登録し、ライブストリーミングで視聴できる。
>> Outside Watch ※リンク
・プロ女子/8月26日(土)午後1時30分スタート
・プロ男子/8月27日(日)午後1時30分スタート
※いずれも日本時間でライブ配信は午後1時00分より開始
【女子レース展望(8月26日)】テイラー・ニブとダニエラ・リフの一騎打ちが見られるか/上田藍選手のパフォーマンスに期待!
北欧フィンランド。北緯61度に位置し、これまでの70.3世界選手権史の中で最北地で実施されるラハティ大会。スイムはウエットスーツ着用が有力視されているが、それがスイム1.9km/バイク90km/ラン21kmのアイアンマン70.3レースをますます面白くする要因となるかもしれない。
女子の優勝候補筆頭はテイラー・ニブ(アメリカ/写真上)だろう。
2021年の東京五輪後、ミドルディスタンスのメジャーレースに初めて挑戦。8月のコリンズ・カップではショートで使用しているロードモデルにDHアタッチメントを装着したバイクで出場しながら、ロング、ミドルの強豪を相手にトップタイムをマークしている。
同年のアイアンマン70.3世界選手権が3位、そして2022年は圧勝。今回ディフェンディングチャンピオンとしてフィンランド入りしている。
ここ数年の充実ぶりが際立つ彼女だが、「尊敬するニコラ・スピリキ(スイス)のようなマルチで強いアスリートを目指したい(WTCS横浜大会でのコメント)」と、2023年はさらに活動フィールドを拡張傾向に。すでにミドルディスタンス2勝、ワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズでも表彰台(横浜大会3位)を獲得し、8月17日に行われたパリ五輪テストイベント結果(5位)を経て、2024年オリンピック・アメリカ代表に選ばれている。
8月5日に実施された PTO・USオープン(スイム2km/バイク80km/ラン18km)では、スペシャルカラーのトレック・Speed Concept を駆り他を寄せ付けないDHポジション・ライドを披露。今回も同様の独走劇を演じても何ら不思議はないだろう。
そのテイラー・ニブとの争いが期待されるのがスイスのダニエラ・リフ(写真上)だ。
アイアンマン70.3世界選手権で通算5勝、フルディスタンスのアイアンマン世界選手権でも5勝という、現役にしてレジェンドの域を越えようかというリザルトを有する彼女。今年6月にドイツで行われたチャレンジ・ロートで8時間08分21秒のフルディスタンス女子世界記録を樹立し、さらなる進化の行程を知らしめた。
ここまで今シーズンの出場は3レースのみ。ラハティの70.3世界選手権のあとは、おそらくアイアンマン・ハワイだけにターゲットを絞り、それぞれの6勝目という前人未到の記録樹立を視野に入れているはずだ。
6月のチャレンジ・ロートで驚愕のフルデイスタンス世界記録をマークしたリフ
一昨年までドラフティングレースを主戦場としていたテイラー・ニブが、秀でたバイクの独走力を備えていることはすでに証明済みで、リフは、彼女と対峙するときスイムでの出遅れがあれば最小限にとどめたいはず。そういう意味でスイムがウエットスーツ着用とれば彼女にとってメリットに働く可能性はある。
ちなみに、これまでテイラー・ニブのアイアンマン70.3レース出場歴は5回。「すでにリフは(70.3世界選手権を)5回の優勝を遂げているので、私はまだまだ勉強中といったところですね(ニブ)」と、彼女へのリスペクトを欠かさず決戦に挑むことになる。
上記のふたりに続くのがポーラ・フィンドリー(カナダ/上)だ。
昨年の70.3世界選手権 でニブに続く2位に入り、今シーズンはミドルディスタンス4レースに出場して2度の表彰台を獲得している。
その一方で、フィンドリーは昨年に続いて国内での自転車ロードレース・個人タイムトライアルに優勝。今年は8月10日にスコットランド・グラスゴーで行われた、UCI世界選手権大会・女子エリート個人タイムトライアルにカナダ代表として出走(25位)している点は特筆すべきだろう。そのまま、フィンランド・ラハティに移動してレースに臨むことになる。
8月5日のPTO・USオープンではテーラー・ニブに約5分差をつけられての3位だったが、お互い過密スケジュールの中、レースがどう転ぶかわからない要素も少なからずあるだろう。
昨年、アメリカ・ユタ州セントジョージで行われた70.3世界選手権の表彰台。2位にフィンドリー、3位(右)にエマ・パラント-ブラウンが立った
同じくイギリスのエマ・パラント-ブラウン(昨年70.3世界選手権3位)も今年、ミドルディスタンス5レースで安定した成績(4度の表彰台/優勝2回)を残しており、今回も上位進出は十分に予想される。
そして、注目は何といっても上田藍選手の出場だ。
彼女は昨年10月にアメリカで行われた 70.3ウェイコー大会で優勝しており、限られた70.3大会覇者として今回のエントリーリストに堂々名を連ねている。
フルディスタンスでも今年、アイアンマン・コーダレン4位、レークプラシッド5位と着実に結果を上げてきており、現地から世界放送されるアイアンマン・ライブでは常に有力選手の “AI UEDA“ に注目。『ランの追い上げはライバルたちの大きな脅威』『笑顔を絶やさないチャーミングなアスリート』などレースに向き合う姿勢も感銘を与えている。
そんな彼女の笑顔のフィニッシュを皆で期待しよう。
<プロ女子・出場者リスト>
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【男子レース展望(8月27日)】ブルンメンフェルトの連覇なるか
男子のレースは、もはや昨年チャンピオンのクリスティアン・ブルンメンフェルトを止められる選手はいるか? ということに焦点が集まっている状況といっても過言ではない。
8月4日のPTO・USオープンでは、バイク終了時に生じた脚のケイレンを抱えつつ3位を確保。
その2週間後(8月18日)に行われたパリ五輪テストイベント(9位)を終え、その日のうちにフランス/シャルル・ド・ゴール空港から10時間以上のフライトを経てシンガポールへ。そして8月20日に行われた PTOアジアン・オープン で完勝するという、常人離れしたパフォーマンスを見せつけられたライバルたちが、「彼はもう別格」というコメントを発していたくらいだ。
これらPTOレースで競い合ったアスリートにはサム・ロング(アメリカ/写真下)、ベン・カヌート(アメリカ)などが含まれているが、フィンランドでブルンメンフェルトを打ち負かすほどの破壊力は今は持ち合わせていないとみる。
8月4日、20日にPTOレースに出場したサム・ロングだが表彰台には届かず。いずれもブルンメンフェルトの後陣を拝することになっている
昨年10月の70.3世界選手権でブルンメンフェルトに次ぐ2位に入ったベン・カヌート(前)。ラン序盤は互角のスピードを見せていた
もはや今回のブルンメンフェルトの相手は疲労や、考えたくはないが過密スケジュールを起因とするトラブルしかないのかもしれない。それだけ隙のない布陣で挑んできているように思える。
一方、今回の70.3世界選手権・男子出場者リストの中、今年のミドルディスタンス・レースでブルンメンフェルトに先着したアスリートがひとりだけいる。それがアメリカのジェイソン・ウエスト(写真下)だ。
8月4日のPTO・USオープンではブルンメンフェルトにアクシデントが生じていたもののランで逆転し、8月20日のシンガポール大会(PTOアジアン・オープン)でも遜色ない走りを見せた。
スイム、バイクで(ブルンメンフェルトに)遅れをとるのは今回も仕方はないだろうが、表彰台は十分視野に入るパフォーマンスを有するアスリートのひとりといえる。
北欧で行われる初のアイアンマン世界選手権。ライブストリーミングでは選手たちのパフォーマンスとともに、ロケーションなどにも注目すればさらに楽しめるのではないだろうか。
<プロ男子・出場者リスト>