世界トップレベルのプロサイクリストでありプロトライアスリート。
キャメロン・ワーフという極めてスペシャルな存在は、国内ではあまり知られていないのではないだろうか。(※写真をタップするとフルサイズで見られます)
彼が所属しているのは “イネオス・グレナディアーズ”。2019年ツール・ド・フランス個人総合優勝のエガン・ベルナル、同2018年優勝のゲラント・トーマスなどを擁する、言わずとしれた知れた世界最高峰のプロサイクリングチームだ。ワーフは過去にはジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャなどグランツールの出場実績もある。
彼のサイクルロードレースでの直近のハイライトは、やはり世界5大クラシックレースのひとつとして4月にフランスで行われる “パリ〜ルーベ” だろう。
『北の地獄』と言われるこのレースは、コース途中に多数の荒れたグラベル(未舗装路、砂利道)区間が待ち受ける難敵。ワーフはここ2年連続で パリ〜ルーベ(写真下)に出場し、2022年には同じチームのエースが優勝。彼はそのアシストとして十二分な役割を果たした。
『北の地獄』と形容されるパリ・ルーベ.。ワーフのキャリアはほかのトライアスリートの誰しもが持たないものだ
驚きなのは、彼は今年のパリ〜ルーベを完走したあとに21kmのラン・トレーニングを行っていることだ。
おそらくトライアスロン史上例のないブリックランに、チーム員たちも驚きを隠せなかったという。
トライアスロン界で彼の名を知らしめたのが2018年のアイアンマン・ハワイだろう。そのときバイクパートでマークした 4時間09分06秒は、昨年サム・レイドロー(フランス)に破られるまでのレコードタイムだった。
しかもハワイ参戦2年目だったというから、これもまた驚きに値する。
その奔放的とも表現できるワーフの年間活動スケジュールは、春から初夏にかけてはロードレースが中心。そして夏場にはロードと並行してトライアスロン大会に積極的に参戦し、オフトレーニングはサイクリスト・メインで取り組むというのがここのところの定番だった。
それゆえ、トライアスロンへの準備という点では限られた時間しかなく、歯がゆい思いを抱いていたようだ。
「バイクのトレーニング中心でもスイムやランでの身体能力向上に寄与する要素は多い。しかし、トライアスロンをターゲットにした(3種目のバランスがとれた)トレーニングに集中できるのは、これまでほんの数週間しかなった」というのが実情だった。
そんな中、ワーフは春のサイクルロードレースシーズンが終わったあと、今年はニースのアイアンマン世界選手権に照準を合わせ、トライアスロンに専念することに決めた。
その大きな理由のひとつに、「ハワイの世界選手権よりも、ニースのほうが断然自分向きのコースだ」ということがある。
具体的にはアップダウンが激しく非常にテクニカルなバイクコースだ。プロサイクリストとして培ってきた能力は、コースの長い上りでの登坂力や下りのテクニックで大きなアドバンテージが得られるチャンスがあると考えている。
2021年のアイアンマン・コペンハーゲンで勝利したときのワーフ(7時間46分05秒)。コロナ禍にあってもロードレースと並行してトライアスロンの大会にも積極的にチャレンジしていた
そのあとワーフは6月に行われたアイアンマン・クラーゲンフルト(オーストリア)で2位に入り、ニース世界選手権のスロットを獲得する。
そして、いかにもその後が彼らしい。翌週のアイアンマン・フランス(ニース)に出場したのだ。つまり、2週連続でアイアンマンのプロカテゴリーを走破したことになる。
これ以降も順調にトレーニングを消化してきたワーフ。7、8月にわたりトライアスロンに向けたメニューを、途中の中断(ロードレース専念する)なく8週間しっかりと続けられたのは初めてのことで、スイムのスキル向上にもかなりの好影響を与えていた。
それにも増して彼が遂行したトレーニングメソッドで興味深いのは、バイクトレーニングの頻度をこれまでより高く保つということだった。
一般的に考えると、プロサイクリストがトライアスロンをターゲットにしたとき、スイム、ランのトレーニングに専念することになるのではないだろうか。
しかし、彼は(6月の)ニースのアイアンマンに出場して、予想よりもはるかに難易度が高いバイクコースだと感じ、(プロサイクリストでありながら)バイクの強化が必要と考えて(3種目の中での)トレーニング量を増やしたという。
これからも、今回のニース世界選手権がいかにタフなコースなのかが分かろうというものだ。当日は一体どういうレースになるのだろうか。
そして、彼のトライアスロンに専念したトレーニングは確実に成果を発揮し、大きな手応えを感じているという。
今は『トライアスロン界の二刀流』であるキャメロン・ワーフ。ニース世界選手権では彼の走りにも注目しておかねばならない。
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