【エリート男子】
コーチと二人三脚で挑むオリンピックロードの集大成
5月11日に実施されたワールドトライスロン・チャンピオンシップシリーズ(WTCS)横浜大会。
エリート男子レースでギャラリーの目を釘付けにしたのは7位に入った日本のニナー賢治だった。
スイムをトップから6秒遅れでアップし、そのままバイクの先頭集団内でも存在感を示しつつラン勝負へ。
そこから東京オリンピック覇者のクリスティアン・ブルンメルト(ノルウェー)、2022年のWTCSファイナルで優勝し、現在ワールドランキング2位のレオ・ベルジェール(フランス)、バンサン・ルイ(フランス)などを従えて4位争いを展開した。
さらにその後、2周目後半(全4周回)から3位争いとなった集団内で、ニナーは常に先頭に立って前を追う。
大きな集団となりラン勝負が濃厚となったバイクパートでも存在感がある積極的な走りを見せていた
周辺ではWTCS日本人男子初となる表彰台獲得の期待が高まっていたのかも知れないが、そんなレベルの走りではなかった。
パリ五輪に向けてランフォーム改造に取り組み、確実な手応えを感じているという彼の走りは、集団内では最もリラックスして見え、その一方で視線は力強くトップを行くふたりをとらえ続けている。
そう、勝ちに行くアスリートの迫力に満ち溢れていたのだ。
それは「日本人選手が世界で勝つ日が来る」という、ファンたちの期待が大きく膨らむパフォーマンスだったともいえる。
ランニングの終盤に入ると、ライバルたちのスパートに遅れをとり7位というリザルトに甘んじたが、それでもこれはWTCS男子の歴史において最上位。
「パリでメダルを獲りたい。(今後そこに)集中します」というレース後のコメントは、7月決戦で今日の光景を上回る、フィニッシュラインまでトップ争いを繰り広げる舞台を期待させてくれるものだった。
「私のチームは本当に素晴らしく、自分を高めてくれている。感謝したいです」
レース後、彼のコーチである村上晃史氏への思いの丈を語るニナー。
まだトライアスロンコーチという概念が確立されていなかった1990年代前半から指導者として活躍し、多くのトップ選手を輩出。そのフロントランナーとして走り続けている村上氏は東京五輪後、ここまでのニナー選手躍進の道筋を示し、支え、そしてけん引してきた。
その先に見据えるオリンピックロードの集大成。
彼らを待ち受ける大舞台は間もなくだ。
<エリート男子優勝> モーガン・ピアソン
男子のレースを制したのはアメリカのモーガン・ピアソン。
パリ五輪の出場権をかけて代表争いを繰り広げる選手が多くいる中、すでに母国代表を決めている現在WTチャンピオンシップランキング1位のモーガンは、「バイクは集団の後ろでエネルギーをセーブしながらリラックスして走れた。自分はランに自信があるので、(バイクが終了し、ランで)どんなに後ろからスタートしても追いつける自信がありました」のことばどおり、ルーク・ウィリアン(オーストラリア)とのマッチレースとなった終盤に抜け出しWTCS初勝利を挙げた。
<男子リザルト>
1位 モーガン・ピアソン(USA) 1:42:05
2位 マシュー・ハウザー(AUS) 1:42:12
3位 ルーク・ウィリアン(AUS) 1:42:20
7位 ニナー賢治(JPN) 1:42:36
⇒ 総合リザルト
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【エリート女子】
2024シーズンの中心となる二ブ
今回の女子レースで世界のメディアが注目したのは、2位となったニブが秘めている限りない可能性だろう。
51.5kmを主戦場にする中、ミドルディスタンスのエリートレースは2021年8月(コリンズカップ)に初挑戦してトップタイムをマークし、2022年4月の アイアンマン70.3オーシャンサイド大会 でも優勝。
同年10月には アメリカ・ユタ州セントジョージで開催された70.3世界選手権 を制し、その翌年は フィンランド・ラハティで世界選手権連覇 も果たしている。
パリ五輪に向けては昨年8月のテストイベント(5位)で早々に母国代表としての出場を決め、その2カ月後、10月のアイアンマン世界選手権(ハワイ)に初挑戦して4位に。
さらにその前にはアメリカ・ミルウォーキーで行われたPTOレース(S2km/B80km/R18km)に出場して優勝。
つまり昨年は、8月6日にミドルディスタンス、17日にパリ五輪テストイベント、26日に70.3世界選手権。そして10月14日に アイアンマン・ハワイ に出場しているわけだ。
さらに他競技に目を移すと昨年、彼女はツール・ド・フランスなどにも出場する世界トップのサイクリングチーム『LIDL TREK(リドル・トレック)』のチーム員として契約していて、7月の個人タイムトライアル・全米プロ選手権に出場。4位のリザルトを残している。
今年に入ってからは4月のアイアンマン70.3オーシャンサイド大会に再び出場して優勝(写真下)。
このレースは今年からスタートした アイアンマン・プロシリーズ のオープニング大会で、そちらでもランキング入りしている。
彼女は、同じく今年から PTO とワールドトライアスロンが提携してスタートさせているスイム2km、バイク80km、ラン18kmの、限定20人の選抜制・シリーズ戦『T100 トライアスロン・ワールドツアー』の登録選手にも選ばれており、なんとこのあと6月8日のアメリカ・サンフランシスコ大会のエントリーリストに名を連ねている。
もし出場することになると、パリ五輪の約1カ月半前に再びミドルディスタンスをこなすことになるわけだ。
「(今回の横浜で)勝つことができずに正直ショックでしたが、今シーズン初の51.5kmの結果(2位)は良しとしています。パリ五輪へのテストレース的な意味合いもありましたし。前に進むだけですね。来年にはハワイのレース(アイアンマン世界選手権)も待ってますし」とレース後、終始笑顔で答えていたニブ。
バイク集団の先頭を引くニブ。スイムは2位でアップして、ランニングもT2スタート時は僅差の14位からしっかりと上位に取り付き2位でフィニッシュした
今回の横浜のレースでも、五輪でライバルになるであろう選手たちにとって、大きな脅威となる存在であることをスイム、バイク、ランそれぞれのパフォーマンスで見せつけたといえる。
そして、パリ五輪の先に見据えるロングディスタンスのアイアンマン。
今シーズン、いや2025年も、距離を問わない女子トライアスロンシーン全体の中心的人物に彼女がなるであろうことを、皆が認識したのではないだろうか。
1年半ぶりの実戦となったフローラ・ダフィ。パリ五輪後のレースフィールドはカオスな状態に
2022年12月のWTCSファイナル・アブダビ大会(優勝)以降、脚の故障などで18カ月間レースから遠ざかっていた東京五輪チャンピオン、フローラ・ダフィ(バミューダ)。
1年半ぶりにレースに復帰したフローラ・ダフィ(右から2人目)。腕に刻まれた59のナンバーが彼女の復帰への並々ならぬ努力を物語っていた
復帰戦となった横浜大会では、バイクの先頭集団で積極的に前に出てライバルたちに大きなギャップを作ることに度々トライするなど、トップで戦えるパフォーマンスを取り戻したことを印象付けた。
今回フィニッシュの結果は7位。
今後のスケジュールにも注目が行くが、実は彼女もニブと同じく前述の T100 トライアスロン・ワールドツアー の選抜リストに名を連ねており、シーズン後半の同シリーズ戦でその姿を見ることができるかもしれない。
パリ五輪、T100レース、アイアンマン・プロシリーズ。
プロのトライアスリートをとりまく環境はかつてない速度感で進化を見せている。
<エリート女子優勝> レオニー・ペリオー
2022年横浜大会で2位に入るなど相性の良さもあわせもっていたフランスのレオニー・ペリオーが、ラン序盤から抜け出して完勝。
4周回となるランの3周目に入ったときは笑顔、ラストラップではガッツポーズを見せるという、まさに “彼女の日” だった。
「ランニングの2周目で仕掛けるつもりでしたが、1周目からトップに立てたので調子の良さが感じられ、行けると思いました。WTCSは初めての優勝となるのですごくハッピーです」
フランスのパリ五輪代表選手が決まるのは6月とのこと。
自国開催に向けて多くの世界ランカーが名を連ね、男女とも非常にレベルの高い選手層を見せるフランスチームに集まる注目度は非常に大きいといえる。
<女子リザルト>
1位 レオニー・ペリオー(FRA) 1:52:28
2位 テイラー・ニブ(USA) 1:53:04
3位 エマ・ロンバルディ(FRA) 1:53:08
44位 佐藤 優香(JPN) 1:58:45
⇒ 総合リザルト
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【Harry’s Shots】ワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズ 横浜2023
トライアスロンの “今” を35年間撮り続けてきたハリーこと播本明彦カメラマンの目がとらえた好評のトライアスロン・ギャラリー特集『Harry’s Shots』。ここでは、エリートレース出場選手のパフォーマンス・シーンを切り取る。(写真をタップするとフルサイズで見られます)
男子優勝のモーガン・ピアソン