7月27日に終了した今年のツール・ド・フランス。
個人総合ではタデイ・ポガチャル(スロベニア)の圧勝で幕を閉じた世界最大のサイクルロードレースは、もはや異次元の領域に踏み入れたと表せるトップライダーたちの走りのイノベーションが浮き彫りなった舞台でもあった。
さらには、そのパフォーマンスを後押しするバイク&エキップメントの進化も止まることを知らない。そんな舞台裏で見た事実をもとに、最前線の情報を発信していくトレンド企画を連載リポート。

第1弾は、極限にまでムダを削ぎ落としつつ、かつセーフティ・マージンとの究極バランスの最適解を具現化している『TTバイクの今』をお届けする。
2025ツールを制したファストモデル
コルナゴ / TT1
使用チーム:UAEチームエミレーツ・XRG

2024年、25年ツールを連覇し、個人総合通算4勝。さらにはステージ通算21勝(歴代6位)を挙げているタデイ・ポガチャル。
彼が2022年から個人TTで投入しているのがコルナゴ/TT1 だ。(写真は2025年・第5ステージ)



数々の先端機能はもちろんのこと、直線美を追求したかのような斬新なフレーム&フロントフォークデザインにも注目が集まったモデルは、そのプレミア性からか本格的に一般流通し出したのは昨シーズンあたりから。国内でもちらほら見られるようにはなっている。
トライアスロンバイクとの共通点
またこの TT1 登場当時、トライアスロン界でほぼ同時期に発表されたのがクリスティアン・ブルンメンフェルト御用達の カデックス/TRI(写真下)。この整流性向上を狙ったリアまわりのデザインなどに共通点を有した、興味深いモデルであったとも見て取れた。


2022年5月のアイアンマン世界選手権(セントジョージ)にクリスティアン・ブルンメンフェルトが投入し、一気に話題をさらった カデックス/TRI(写真は2022年コリンズカップのときのもの)
この TT1 は、ポガチャルがツールの個人総合で初優勝を遂げた2020年。それまで首位を走り続けていたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を第20ステージの個人タイムトライアルにて大逆転して退けた伝説の、「ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ(La Planche des Belles Filles)の山頂フィニッシュ」で使用していた、コルナゴ / K.ONE(写真下)の進化版である。

2020年のチームUAE・エミレーツの個人TTに投入された K.ONE。ここからポガチャルの躍進がスタートしたとみることもできるだろう
ちなみに、トライアスロン界におけるコルナゴの歴史を紐ほどくと、1996年、99年とアイアンマン・ハワイ(世界選手権)を制し、2000年前半までアイアンマン・シーンを席巻したルク・ヴァンリルデ(ベルギー)にまずは行き着く。
当時彼が使用していたのがコルナゴで、ハワイ優勝バイクは『レコード(Record)』の名を冠し、フロント26✕リア27インチホイールを組み合わせたいわるファニーバイク。このデザインは業界に大きなインパクトを与え、トライアスロンバイクの一時代を築いた逸品であった。
細部に息づくエアロの遺伝子
この TT1 の細部を見ると、純トライアスロンバイクとの共通点を多々見ることができる。
その一端がボトムブラケット(BB)付近に設置するエアロボトルだ。

UAEチームエミレーツ・XRG 使用のエアロボトル内には水は入っておらず、フレーム形状の一角を成す役割を担っているだけだった
ご存じの通り、クランクが回転しながらの走行中、BB付近を中心とした足まわりの気流の乱れは抵抗を生む要因となりやすく、その整流効果を狙いデザインされたトライアスロンバイクは多い。
その一翼がキャニオンの Speedmax CFR だ(写真下)。


UCI(国際自転車競技連合)のレギュレーションに収まる必要のないトライアスロンバイクのデザインは先鋭的な形状も多々あり、写真のキャニオンもS peedmax TT のデザインとは一線を画している。
さらには UCI 適合の TTモデルでもコルナゴ/TT1 と同様、エアロボトル・アタッチメントを標準装備し、トライアスロンバイクの機能としてアドバンテージをアピールしているバイクも多い。


2023年にリリースされたTTバイク、BMC の Speedmachine(スピードマシーン)もBB上にエアロタンクを標準装備している
チームと開発した先進エアロホイール
そして、UAEチームエミレーツ・XRG のバイク・エキップメントで大きなポイントなるのが『ENVE(エンヴィ)』のホイールだ。
同チームは2年前から、精密さと革新性を追求するアメリカ発・カーボンコンポーネントの新興ブランド「ENVE」を採用。その間、共同で開発も続けており、TTバイク、ロードとも同社のエアロ形状を成したホイールで足回りを固めている。


ポガチャルがツールの個人TTに投入したモデルは、前輪が “SES 6.7”。リムハイト60mmに今やスタンダートといえる28mm幅のタイヤを装着し、リアには国内希少モデルとも言える “SES Disc” を装着。
タイヤはコンチネンタル Grand Prix 5000 TT TR を定番として使用している。

トライアスロン界でも定番となり得るか?
このアメリカンメーカーの ENVE は、バイクパーツだけでなくカスタム・ロードバイクもラインアップしており、ツール出場チーム(トタルエネルジー)が採用。
TTバイクこそリリースされていないが、総合バイクブランドとしても浸透してきており、トライアスロン界でもさらに需要が高まってくるのではないだろうか。
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TTバイク & トライアスロンで実績十分のハイエンドバイク
サーヴェロ / P5
使用チーム:ヴィスマ・リース ア バイク
昨年のツール期間中に一般公開された新型のP5。
今回登場のモデルも、優勝候補のひとりで2022年と23年に個人総合連覇を果たしているヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)擁するヴィスマ・リースアバイク(オランダ)が採用。ヴィンゲゴーは2024年に続き総合2位を獲得している。


サーヴェロは、トライアスロン界でも特にアイアンマンを中心としたロングディスタンスで高いシェアを誇り、この注目のモデルも今シーズン、数々のトップトライアスリートが実戦投入。
先日、引退発表をしたばかりではあるが、アンネ・ハウク(ドイツ/写真下)の代名詞であったのは記憶に新しいだろう。


アイアンマン世界選手権優勝など、数々の偉業を成し遂げてきたアンネ・ハウク。残念ながらこの7月に引退を発表している(写真は2024年以前のもの)
ヘッドチューブからフォークにかけてシェイプしたデザインにて前投影面積を削減。シートポスト下のフレーム溶接部分を拡大させて剛性を高めつつも、前面からはスリムに絞られているデザインなどが特徴的。
使用タイヤ幅サイズも近年のトレンドとなったワイド化対応し、最大34mm幅まで装着できるという。

注目点は何と言っても足まわり。ホイールにトライアスリートにもお馴染みとなったブランド、 Reserve の『99 | Disc Turbulent Aero』を装着。文字通り前輪に超ハイト・ディープリムと後輪ディスクの組み合わせでエアロ効果を突き詰めている。
そして、ヴィスマ・リース ア バイクのタイヤは転がり抵抗性能が最高レベルという触れ込みで話題の『Vittoria CORSA PRO SPEED』をアッセンブル。タイヤ幅は28mmだ。

また、これも昨年話題となった GIRO のエアロヘルメットも存在感を示していた。

フロントのチェーンリングは当然のようにシングル。
もはやツールでのTTバイクはコース特性に関係なく、全車といっていいほど(実際の感覚では95%ほど)ワンバイ・ギア仕様で、その潮流が止まることはないだろう。

新型S5も登場
「全部新型だからね。ちゃんと紹介してヨ・笑」と、チームスタッフが案内してくれたのが、今年ツールのステージ序盤から登場したS5。先月一般リリースされたニューモデルだ(写真上)。
昨年のP5に続き、世界の注目が集まるツールにて実車のお披露目となった。
こちらの詳細は、このあと予定している『エアロロード最前線』にて紹介予定だ。
※次回、2025 TTバイク最前線② に続く