【IMニース世界選手権・特集】ヤーン・フロデーノのラストダンスに注目 / 『常にプレッシャーは感じている。それが楽しいことでもあるんだ』 〜出場プロ注目選手 ① 〜

IM 世界選手権

アイアンマン世界選手権ニース大会の出場サインを済ますフロデーノ。泰然自若といったラックス感が漂う

“GOAT” とは英語で「ヤギ」のことだが、スラングで Greatest Of All Time を略し、『史上最高の』『超最高の』という参辞を表す意として使われることがある。
スポーツ界では競泳で23個の金メダルを獲得したマイケル・フェルプス、幾多のグランドスラムを制してきたテニスのセリーナ・ウィリアムズなど、ごく限られたスーパースターにしか与えられない称号だ。

そしてヤーン・フロデーノ。
20年以上のキャリアにおいて、常に世界のトップを走り続けてきたトライアスリートも、そう形容されるひとりである。(※写真をクリックするとフルサイズで見られます)

北京オリンピック優勝、アイアンマン世界選手権3度制覇など、フロデーノのプロフィールを紹介するとき必ず挙げられる実績であるが、そのとき彼が戦ってきたライバルたちを振り返ると、改めて “GOAT” と称される所以を知ることができる。

2008年にその名を轟かした北京オリンピックでは、シドニーでオリンピック初代チャンピオンに輝いたサイモン・ウィットフィールド(カナダ)とのスプリント勝負に勝利。のちにITU世界選手権5勝を挙げるハビエル・ゴメス(スペイン)を従えての載冠だったことも注目すべきだろう。

その後、ロンドン五輪(2012年)を6位で終えたあと活動のフィールドを拡張。アイアンマン70.3世界選手権で2度優勝しているが、そのときしのぎを削りあった中には同じくハビエル・ゴメス、そしてオリンピック2勝を挙げていたアリスター・ブラウンリー(イギリス)がいる。

そして彼のキャリアのハイライトのひとつとなるアイアンマン世界選手権の優勝は、パトリック・ランゲやセバスチャン・キーンレ(いずれもドイツ)、ライオネル・サンダース(カナダ)などのライバルたちと共演。
それぞれショートからミドル、ロングと一時代を築いているトップアスリートたちを凌駕するパフォーマンスを披露し続けてきた。

2021年にフロデーノの発案で実現した TRI BATTLE レース。ライオネル・サンダースの彼へのリスペクトがイベント成立の一因にもなった

ライオネル・サンダースは言う。
「ヤーンはこの競技の価値をさらに高めたリスペクトすべき偉大なアスリート。そのプロフェッショナルな姿勢は他の世界的スポーツのレジェントたちと同等のものなんだ」

プロフェッショナル。
彼と同じ世代を戦ってきたアスリートすべてが参辞する理由のひとつとして、その類まれなるプロ意識の高さが必ずといっていいほどコメントされている。

今年5月、スペイン・イビザ島で行われた PTOヨーロピアン・オープンで見られた新旧トリプルクラウン(五輪、アイアンマン世界選手権、70.3世界選手権覇者)の争い。クリスチャン・ブルンメンフェルトも彼をリスペクトしてやまないひとりだ

彼の2014年から2021年までの戦績を見ると32レース中26勝を挙げ、2015年、2018〜2021年は出場したレースすべてで勝利している。進化し続けるフロデーノは3種目のバランスがとれた、その上突出した能力を有し、付け入るスキを与えないパフォーマンスでライバルたちを抑えてきた。
完成されたトライアスリート。高い意識をもち続け競技に取り組む姿勢。“GOAT” はアスリートの誰しもがリスペクトする存在といえるだろう。

9月10日に行われるアイアンマン・ニース世界選手権の記者会見。与えられたレースナンバーは『1』で、これも大会側のリスペクトの表れだ

その彼が、9月10日に行われるアイアンマン世界選手権ニース大会で引退する。
今シーズンに入る前、プロとしての競技から退くことをアナウンスした後、フロデーノの一挙手一投足は注目を集め、出場するレースではさらに大会の中心を担う存在となっていた。重圧も相当なものではないだろうか。

ニース大会の2日前に行われた選手会見では、「プレッシャーは感じているか?」という質問が飛んだ。
すると、「これまで常にプレッシャーは感じ続けてきた。そして今回も(強力なライバルたちとともに)8時間集中して、我々出場者は誰が頂点に立つのかを見届けなければならない。 でもそれは素晴らしいことです。 正直に言うと過去 23 年間(自身のキャリの中で)その感情が私の人生を支配していました」と、今までの歩みを振り返るように答えたフロデーノ。

記者会見後、自身から記念撮影をリクエストしたフロデーノ。後ろに並ぶライバルたちの表情が、彼に対する気持ちをすべて表しているだろう

「もう一度、そのプレッシャーに打ち勝つためにアタックをかけていく」
そう決意表明した彼のラストダンスには、どのような結果が待ち受けているのか世界のトライアスロン・メディアが注目している。
アンコールはないのだから。

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