世界最高峰の自転車レース、ツール・ド・フランス(TDF)で各チームが投入する、勝つため、速く走るために一切の妥協を許さず仕上げられたバイクは、われわれ一般アスリートにとっても役立つ要素が詰め込まれた、技術の宝庫といえる。そんな現地で取材したポイントを紹介していく。
その第1弾は、すでに今年のステージ4勝を挙げている最速スプリンター、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)が乗るキャニオン/AEROAD CFR を取り上げよう。(※写真をタップするとオリジナル画像が見られます)
2023年ツール、13ステージ中4勝を挙げているヤスペル・フィリプセン(© A.S.O. / Pauline Ballet)
トライアスロンではヘイデン・ワイルドが今年からキャニオン・ユーザーとなり、同じ AEROAD CFR に乗りワールドトライアスロン・チャンピオンシップシリーズ横浜大会で優勝したのは記憶に新しい(写真下)。
【注目ポイント】28mm幅のタイヤを使用
フィリプセンのバイクを見たとき目につくのが、タイヤに幅28mm(ここではあえてmmと表示)のビットリア・CORSA PRO を装着している点だ。
タイヤの走行時の転がり抵抗を考えたとき、漠然と「細いタイヤ=抵抗値が小さい」と考えられていた時代が昔はあった。トライアスロンでいうとタイヤ幅21mmや場合によっては19mmといったモデルもあり、トップ選手たちが利用していたという経歴がある。
しかし、ある時点より自転車走行時において「太いタイヤと細いタイヤを比べた場合、同一空気圧なら太いほうが転がり抵抗が少ない」という一般的な測定値が考慮されるようになり、ひいては「(空気圧設定とのバランスが適正であることを前提に)転がり抵抗を軽減させるためにある程度太いタイヤを使用する」という考えが浸透、常識化しているようだ。
フィリプセンが所属するチームのバイクすべてに 28mm幅のタイヤがセットされていた
その理由として、転がり抵抗の最も大きな要因が「タイヤの変形」にあるということだ。タイヤが変形することで生じる走行時のエネルギーロスとも表現できるだろうか。
たとえばライダーが乗車し走行しているとき、タイヤの変形度合いが大きくなると、必然的に路面とタイヤとの設置面積も大きくなる。
そういった様々な要因が走行時の転がり抵抗値を左右するわけだが、少なくとも近年のツールの傾向を鑑みるとタイヤ幅が太くなっていく方向性が見て取れる。これは、その(太くする)メリットがさらにクローズアップされている証左ともとれるだろう。
今年のスプリント勝負で圧倒的な強さを見せているフィリプセン
もちろん、進化がとどまることのない自転車エキップメントの中にあってタイヤも例外ではなく、素材面や形状などの研究、製品化が新たな要素を生み出している側面もあるだろう。
それに加えて、一般的には太いタイヤのほうが(細いタイヤと比べて)乗り心地がマイルドで、安定性が高いという傾向にあるのは疑いの余地はないはず。その上、走行抵抗が少ないとするならば使わない手はないだろう。これは一般選手ならばなおさらではないか。
世界最高峰のサイクルロードレース、TDFで今年ステージ4勝を挙げているフィリプセンの28mm幅タイヤが、そう訴えかけているように見えるというのは言い過ぎだろうか?
【注目ポイント】フレキシブルなポジショニングを可能にする調整機能
近年のロードバイク(トライアスロンももちろん)はブレーキホースやケーブル類がすべてフレーム内などに内装され、さらなる空気抵抗の削減を狙ったモデルが多いが、それゆえにメンテナンスやポジション調整の難しさが相反する傾向にあった。
キャニオン/AEROAD CFR も例外ではなくケーブル類が内装されているだが、このフィリプセンの駆る AEROAD CFR の市販モデルは、ハンドル幅を工具1本で、最大40mmの幅調整が可能。さらにはステム位置をスペーサーなしの状態から5mm刻みで最大15mmまでシームレス(コラムのカット不要)で高く調整することができる。
つまりはサドル高のように、ハンドルまわりのポジションも比較的手軽にいろいろ試せる(調整できる)わけで、これはビギナーアスリートにとってこそ、重宝する機能といえるだろう。
そういった外見からは判断しにくい機能も、バイク選びのアドパンテージ・ポイントとしてチェックしておきたい。
ただ単に速く走るだけではない、ユーザビリティー性も機能の高さとして評価される時代になってきているといえるだろう。
(写真左)ボトルケージはトップチームに圧倒的な使用率を誇るエリート製を設置。(右)シートステーにはシマノ・デュラエース誕生50周年を記念したロゴが表示されている