いよいよ2021年のツール・ド・フランスが開幕した。
今年のコースはフランス北西に位置するブレストからスタートし、国内を斜めに横断するかたちでアルプスへ。アルベールヴィルでの休息日を挟み南部の国境線沿いをなぞるように進んでピレネーに入り、アンドラ公国での二度目の休息日を経て一気に北上。ボルドー、そしてパリへと帰ってくる全21ステージ、3,414kmだ。
最長となるワンデイの距離は第7ステージの249.1km。最高到達点は第15ステージ後半のアンドラの山岳ポイントで標高なんと2,408kmだ。そんな世界最大のサイクルロードレースを追う(応援する)人たちの規模や数、そして地域さまざまな熱狂度は半端ではない。この初夏のフランスの祭典を盛り上げる観客・応援者たちの観戦スタイルを、これまでに出会った人たちを交えて紹介しよう。
まずは一昨年前のこと。フランス南部のニームに向かう高速のドライブウエイでパソコンを開いていると、かわいい男の子が声をかけてきた(フランス語なのでもちろん分からない)。4人掛けのテーブルを使っていたので、席を譲ってくれない? と言っているのかと思っていたら、あとからお父さんが来て「ニームに向かうのか?」と問いかけてきた。どうやらこの子、筆者が首にかけていたIDパスを見て「ツールの人なの?」と興味を示してくれていたらしい。聞くと、このファミリーはリヨンの隣にあるサンテティエンヌから同じくニームに向けて移動中なのだという。行程にすると約250km。もちろんレースを現地で見るためだけにだ。
こういった観戦のための民族大移動が毎年変わるルートによって、いろいろな地域で起こっているわけだ。親の意向はもちろん、子どもたち主導で見に行きたいというパターンも多くあるようで、沿道で親子そろって観戦しているファミリー姿が多いのもうなづける。
ドライブウエイで会ったちびっ子ツールファン。胸にあるTシャツのマークは地元サッカークラブのサンテティエンヌのウエアとのこと。スポーツが大好きなんだね
応援スタイルといえば、最大名物のひとつがピレネーやアルプス山岳ステージでの熱狂的なグルーピーだ。特等席をとるために数日前からキャンピングカーで寝泊まりする多数のファンがいるというのは有名な話。また車の交通規制が厳しいので、レース当日は皆自転車でコースを上って観戦にやってくる。その風景はまるで何か別のレースが行われているかのようで壮観だ。
一昨年、ガリビエ峠に向かうステージ前日で同じ宿舎だった粋なシニアサイクリスト。これから観戦のために標高2,000m超を上るという
プレスのパスを首にかけていると良く声をかけられることのひとつに、「俺を(あるいは私を)撮れ」というリクエストがある。なんか気弱で断ることができなさそうに見えるからか筆者は本当に多い。自分が雑誌、あるいはウェブに載るんじゃないかと思っているのかもしれないが、中には酔っ払っている人もいるので、こちらとしては時と場合によって対応を変えている。
さらに、たまにあるのが取材車両と知ってか「車に乗せてくれないか?」という要望。いわゆるヒッチハイク感覚なのだろうが、さすがにそれは断るしかない。
とにかくツールは3週間も続く行程だから毎回何かが起こる。本当にいろいろな人たちの出会いがあり、体験ができるのがこのレースの魅力のひとつなのだろう。彼ら応援者はツールを支えるもう“ひとつの主役”。今年も、テレビには映らないレースの裏側の人たちの様々なストーリーがスタートした。
(写真上)アルプス・ガリビエ峠で「帰りに車に乗せて」と声をかけられたグループ。さすがにそれはできないので記念写真だけで勘弁いただいた (写真下)「とにかく写真を撮れ」と言われ撮ったこれまでカットの中のふたつ
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