「このレースのあとはハワイに向けて準備していくだけですね」
8月20日のコリンズ・カップを女子選手全体のトップタイムでフィニッシュしたあとに目標を聞くと、そう帰ってきた。
そのことばどおり、コリンズ・カップ後は地元スイスのサンモリッツでコンディショニングに費やし、その後、ハワイ・マウイ島で約3週間。じっくりと、そして着実に10月の大一番へパフォーマンスを上げてきている。
“盤石” まさにそんなことばがあてはる状況だろう。(※写真をタップするとフルサイズで見られます)
一方で、レース2日前のプレスカンファレンスでは、「5月のセントジョージ(アイアンマン世界選手権)に勝っても、ここで成績が残せる保証は何もない。ライバルたちをリスペクトしてレースを楽しみたいですね」と、もちろん慢心はなし。
それが一層、彼女の自信を裏付けるものとさえ感じられる記者会見だった。
しかし、そんなリフも現在の好調に至るまでは順風満帆とは言い難かった。
2021シーズンは、8月25日の コリンズ・カップ(18人中17位)、9月18日の アイアンマン70.3世界選手権(11位)の期待されたレースで思うようなフォパーマンスを発揮できていない。
昨年は、原因が特定できないまま免疫系、呼吸器など身体の健康問題を抱えてしまい、思うようなトレーニングができない状態が続いたという。シーズン後半にその症状は顕著だったようで、イライラした毎日が続いたとも。
それだけに今年5月のセントジョージに向け、レース4週間前から同じアメリカの内陸地で、高地トレーニングで有名なアリゾナ州・フラッグスタッフに拠点を構え練習を積み、コンディションを上げていた。
そんな、着実な取り組みが功奏したのだろう。
「この2年半、実施されていなかったアイアンマン世界選手権にターゲットを定め、勝てたことは非常にスペシャルなことでした」と自信を取り戻したようだった。
それだけではない。
多くのメディアは忘れているかもしれないが、彼女は5月の世界選手権を戦う前に、すでに2022年シーズン全体を描いた発言をしている。
それは、セントジョージで初めて行われるワールドチャンピオンシップの開催時期と、タフなコースによるダメージ、さらには年間スケジューリングの難しさだ。
ハワイが実施されるのは毎年10月。この世界一を決める過酷な消耗戦のあと、通常はシーズンが終わりに向かうが、今年は2度の世界選手権がある。しかも最初は5月で、これからレースが本格化するタイミングとなる。
8月のコリンズ・カップでも強さを見せたリフ。鍛え上げられた身体がその好調さを物語っている
激しいアップダウンが待ち受けるセントジョージのコースは、ハワイ4連覇の彼女をもってしても、「レース後のダメージは相当覚悟しなければならない」と分析。そのため、5月以降のスケジューリングにも慎重を期さなければならなかった。
これはリフだけに限らず、セントジョージ大会に出場したすべてのアスリートに突きつけられた課題でもある。
それだけに、シーズンを大局的に見つつ、万全なコンディションでレースに臨めるよう、着実に準備を進めきたリフのパフォーマンスが今回、ハワイの勝利の行方を左右することは間違いない。
【ダニエラ・リフの決戦バイク/フェルト・IA 2.0】
昨シーズン中盤からリフが駆り、注目を集め続けていたフェルトのニュー・トライアスロンバイク。本格的な世界リリースが長く待ち焦がられていたが、ようやく今回のハワイで正式披露されている。
一番の特徴といえるのが個性的なフレームデザインだ。大幅に湾曲したトップチューブなど全体的に丸みを帯びた形状は、トライアングルフレームでは過去に例がないほどボリューミー。さらにはフロント&リアまわりなど独創的なフォルムを見せる。
もうひとつの大きな特長は、トップチューブに一体化された大型のフューエルシステム。
しかし8月に行われたコリンズ・カップでは、ミドルディスタンスのレースもあってか、リフはそのタンクを取り外してレースに臨んでいた(写真上)。
普段も“タンク・レス”でバイクトレーニングを行っているケースが多いようで、レース時の軽量化など、用途に応じてオプション選択もできそうだ。
さらに今年のリフのバイクで注目すべきは、SWISS SIDEのカスタムメイドDHバーだ(写真上)。このTTアタッチメントの感触は良好のようで、下りの高速セクションや横風の中でもDHポジション走行の強い味方になるという。
そしてリフは特別仕様のアタッチメント用フューエルタンクを好んで使用。今回のハワイでも前述のフレーム一体型タンクは使用しておらず、彼女の場合はこのアタッチメント用で十分対応できるのだろう。
スイスサイド社とは、F1の元エンジニアが創設したメーカー。最先端の風洞実験やコンピュターでの流体解析を駆使し、とことんエアロダイナミクスを追求したプロダクツの製作やテクノロジーの供給を行っており、トライアスリートだけでなく、トップ・プロサイクリングチームのTTバイクなどにも採用さている先鋭メーカーだ。
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